南山の先生

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人文学部・人類文化学科

黒澤 浩

職名 教授
専攻分野 博物館学、考古学
主要著書・論文 『博物館教育論』(共著、2015年、講談社)
『博物館展示論』(共著、2014年、講談社)
『人が優しい博物館』(共著、2016年、青弓社)
「カンボジアにおける土器作り村の調査」『アカデミア人文・自然科学編』第11号(2016年)
将来的研究分野 博物館における学習プログラムの開発、ミュージアム・マネージメント
先史時代土器の比較研究
東南アジアにおける土器作りの民族誌調査
担当の授業科目 (主なもの) 「博物館概論」「博物館実習」
「人類文化学特殊講義(農耕文化論)」

世界を見る解像度を上げる――博物館を楽しもう

 皆さんを取り巻く世界は、様々なモノでできています。もちろん、その世界には目に見えないものもたくさんありますが、普段の生活で直観的にわかるのは身の回りを取り囲む自然や人工物でしょう。でも、私たちにはそのすべてが見えている、あるいは感じられるわけではありません。興味のないものは、実際にそこにあったとしても、その存在を感じることはないのです。そんな経験はありませんか?
 でも、そうした私たちを取り巻く世界がどういったものでできているのか、少しでもわかってくれば、毎日の生活はもっともっと楽しくなるのではないでしょうか?それでは、どうやったら身の回りのものが見え、あるいは感じられるようになるのでしょうか?
 その方法は様々ですが、一つの方法は博物館にいくことです。博物館には様々なモノが展示され、説明が付けられています。それは、例えば、歴史であれば過去にこんなモノがあり、こんな人たちがいたんだ、ということが感じられるでしょう。自然のものであれば、どういう環境の中で人間が生きているのかが感じられるかもしれません。美術館で芸術作品を見れば、人間の生み出した様々な造形に驚くかもしれません。
 このような経験を通じて、私たちは自分たちを取り巻く世界の様子が見えてくるのです。最近知った言葉ですが、これを「世界を見る解像度を上げる」と言った人がいます。私はこの言葉がとても気に入っています。
 ただし、解像度が上がった人が、ごく一握りの人であってはいけません。なので、博物館という場所は、全ての人が好奇心を満足させられる場所であってほしいと願っています。なぜこのように言うかというと、歴史的には様々な知識をごく一部の人だけが握っていた時代が長く続いていたからです。そんな不公平が、17世紀にヨーロッパで近代的な博物館が成立することで、大きく変わっていきました。
 全ての人が平等に知識や経験、思考を共有できること。こういう観点で見ると、最近よく言われるSDG'sには博物館に関することがいくつかあることがわかります。例えば「4 質の高い教育をみんなに」は、直接かかわることでしょうし、間接的には環境問題や貧困問題、そして健康等にも関わることができるのです。
 おそらく、皆さんは博物館をそのように見ては来なかったかもしれません。でも大学で博物館を学ぶ、あるいは博物館で学ぶうちにそうしたことが理解されることと思います。
 何よりも、全ての人に知を共有する場を提供する博物館(そして図書館も)は、それ自体が民主主義の基盤であり、民主的な社会そのものを示しているのだと思います。