南山の先生

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国際教養学部・国際教養学科

吉田 信

職名 教授
専攻分野 国際関係論,植民地法制史
主要著書・論文 『アジア遊学258史料が語る東インド航路:移動が生み出す接触領域』(共編著)勉誠出版,2021
『アジア法整備支援叢書 インドネシア:民主化とグローバリゼーションへの挑戦』(共著)旬報社,2020
将来的研究分野 オランダ領東インドの公衆衛生行政,植民地責任と補償の問題
担当の授業科目 多元文化論,国際関係論など

グローバル社会の成り立ちを解き明かす

私たちの暮らしている社会は世界と密接につながっています。昨年からのコロナウイルス感染症の拡大は,あらためてその事実を私たちに突きつけました。これもグローバル社会の現象のひとつです。一般に,グローバル化は,ヒト・モノ・カネの国境を超える移動として整理することができます(近年ではここに情報も加えられています)。

 世界のグローバル化はいつ,どこで,どのように進展し,現在どのような状況にあるのか。この問いに対しては数え切れない研究が様々な角度から論じています。私自身は,ヒトの移動に現在は関心を持って研究を進めています。通常,ヒトの移動を対象とする研究は,どこの国のヒトが,どのような事情で自国を出て他国へ移動するのか,移動した先でどのような状況に置かれるのか,という点に着目して論じられることが多いと言えるでしょう。いわゆる,移民や難民を論じる際の視点です。

 私の関心は,実はそこから少しズレています。誰がどのような事情で,というよりも,国境を超えるヒトの移動が,どのように制度化されていったのか,という点により興味があります。言い換えるなら,ヒトそのものというよりも,ヒトの移動を可能とするシステムが国際的にどのように形成されてきたのか,という点に関心があると言えます。その象徴が,国境を超える際に必要な旅券(パスポート)です。私たちは旅券なしでは海外へ渡航できず(ひとまず密航には触れません),自分が何者かを証明することもできません。では,旅券を使って国境を超える移動のスタイルは,いつどのように形作られてきたのか。私たちが当然のように使っている旅券は,いつどのように現れ,使われるようになってきたのか。こうした問いに対して,私たちは案外正確な回答をあたえることができていません。

 現在の私たちの国境を超える移動とは,ある国からある国への移動が当然のこととされています。しかし,歴史を振り返れば,第二次世界大戦の前,世界の大部分は植民地でした。植民地への移動,例えば,本国と植民地との間,あるいは植民地同士での移動に旅券は必要だったのか。こうした問いへの手がかりを昔の旅行記に求めても,正確な情報を得ることは,実は困難です。想像してみれば,現在の私たちも海外旅行するときに出入国審査の状況を詳しく記録する人のほうがまれで,大抵は実際に訪ねた観光地の名所旧跡やグルメ情報を記録するのが一般的で,それは昔からあまり変わっていません。


 グローバル化の進む世界で,ヒトの移動はどのように制度化されてきたのか。その象徴である旅券に着目しつつ,ボロボロの古い旅券をオランダや英国の文書館で集めながら,国境を超えるヒトの移動が制度化されていく様子をどのように描き出すことができるのか,と思いながら研究を進めています。

「1900年にオランダ領東インド(現在のインドネシア)で発給された旅券。当時の旅券は現在のような冊子型でなく紙片で証明写真の代わりに所持人の身体的特徴を記入していた。」(CBG Centrum voor Familiegeschiedenis所蔵)