南山の先生

学部別インデックス

国際教養学部・国際教養学科

塩寺 さとみ

職名 准教授
専攻分野 植物生態学、地球環境科学
主要著書・論文 Tropical Peatland Eco-management (chap. 1 “Basic Information About Tropical Peatland Ecosystems”, Springer Japan, pp. 3-62.(共著, 2021年)
「熱帯泥炭湿地林の人為的攪乱とその回復可能性」, 『日本生態学会誌』, 第70巻1号, 日本生態学会, pp. 15-29.(共著, 2020年)
“TRY Plant Trait Database – Enhanced Coverage and Open Access”, Global Change Biology, 26(1), pp. 119-188(共著, 2019年)
将来的研究分野 東南アジアにおける自然資源の持続可能な利用
地域社会と森林の役割
担当の授業科目 「サステイナビリティ・スタディーズ概論 / Introduction to Sustainability Studies」
「サステイナビリティと生態系 / Sustainability and Ecosystem」
「サステイナビリティと国際問題 / Sustainability and International Issues」

私たちの社会と自然環境

 みなさんは、「生態学」というとどのような学問を思い浮かべるでしょうか。その名前が持っているイメージから、ある生物の生き方や振る舞いを研究する学問のように思われる方もいるかもしれません。でもそれは、「生態学」のほんの一部分を表しているにすぎません。「生態学」というのは、生物とその生物が生育している環境との間にどのような関係性があるのかを明らかにしようとする学問です。

 例えば、道端に野原があったとします。そこには様々な草花がみられますが、その草花はいつから、そしてなぜそこに生えているのでしょうか。そして、いつまでそこにいることができるのでしょうか。植物には様々な種類があり、明るい場所が好きなもの、高山に見られるもの、夜に花を咲かせるものなど、その特徴も多様です。その野原に生えているとある植物は、近くに建物が建って日影ができるといなくなってしまうかもしれません。その代わりに新しく、少しだけ暗い場所が好きな植物が生えるかもしれません。一方で、植物が繁茂している野原では、植物の光合成によっていくばくかの二酸化炭素が吸収されていることでしょう。植物が根から土の栄養を吸収したり、植物の遺骸が分解されたりすることで土の中の栄養分も変化していきます。

 私はこれまで、インドネシア、マレーシアといった東南アジアの熱帯林で、樹木の多様性や環境への適応に関する研究を行ってきました。熱帯域は植物や動物を含めた生物の種多様性が高いことで知られていますが、日本が属する温帯域とは異なり、一般に、朝と夕との温度差が大きい割に、季節的な温度変化はあまりみられません。けれども、降水量に関してみると、雨季や乾季といった大きな年変化がみられます。このため、植物と環境との関係性も温帯域と熱帯域とでは異なってきます。このように、生物と環境は相互に影響を与え合っており、その複雑なしくみのひとつひとつを解きほぐしていくのが「生態学」であるといえます。

 東南アジア地域では近年、アブラヤシやアカシアなどのプランテーションのための大規模な土地開発や、それにともなう膨大な量の二酸化炭素の放出が起こっており、これは地球温暖化の大きな要因の一つとされているため、解決されるべき地球環境問題として世界的に注目を集めています。アブラヤシから取れるパーム油は現在、世界中で多くの製品に使用されていますが、私たちが普段の生活でそれを意識することはほとんどないといえるでしょう。さらに、そのパーム油が、インドネシアでの大規模火災や、それによるオランウータンの死滅、近隣諸国への煙害と密接に関連していることは日本ではほとんど知られていません。しかし一方、当該国や現地住民にとっては、このプランテーションで生産されるアブラヤシやアカシアは経済発展を支える重要な商品であり、さらに、投資者や消費者は日本を含む先進国や周辺国であるというようにその関係は複雑です。

 したがって、このような森林破壊を食い止め、残された森林を将来に残し、かつ持続的に利用していくためには、森林がこれまでどのようにして維持されてきたのかを解明し、現在の森林をどのように保全・回復していけばよいのかを知ることが大変重要であると同時に、森林と人間社会とのかかわり方についても考えていかねばなりません。このように、地球環境問題を解決する上では、科学的根拠をもとにこの複雑な関係性を解き明かし、具体的な解決策を探っていく必要があります。私たちの社会と自然環境とのかかわりについて皆さんも学んでみませんか。