南山の先生

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国際教養学部・国際教養学科

篭橋 一輝

職名 准教授
専攻分野 環境経済学、地球環境学
主要著書・論文 「持続可能な発展論から見たランドケアの原理的特質——土地劣化問題への対応に注目して」、『社会と倫理』、第33号、pp. 3-15.(単著、2017年)
「クリティカル自然資本と持続可能性—到達点と課題—」、『環境経済・政策研究』、第10巻2号、pp.18-31.(単著、2017年)
“The Effects of International Trade on Water Use”, PLOS ONE, Vol. 10, Issue 7, e0132133, pp. 1-16.(共著、2015年)
将来的研究分野 幸福の経済学、自然の価値論、持続可能な地域発展論
担当の授業科目 「サステイナビリティ・スタディーズ概論A / Introduction to Sustainability Studies A」
「サステイナビリティとエネルギー問題 / Sustainability and Energy Issues」
「PBL演習A(環境)」

〈環境〉と〈経済〉を通じて「サステイナビリティ」を探求しよう!

 近年、SDGs(持続可能な開発目標)やESD(持続可能な開発のための教育)の登場とともに、「サステイナビリティ(持続可能性)」という言葉が様々なところで聞かれるようになりました。でも、「サステイナビリティって何?」と聞かれたら、ぱっと答えられる人は少ないのではないでしょうか。

 確かに、サステイナビリティは、どこか捉えどころのない概念です。サステイナビリティは英語の"sustain"から派生していますから、何かを維持することの可能性や能力を指しています。そう考えると、サステイナビリティは何かポジティブなことを示しており、サステイナビリティが高まることは望ましいことと考えて良さそうです。では、具体的に「何を」持続させることが、望ましいと言えるでしょうか?私たちは「何を」持続させれば、サステイナビリティを高めたことになるのでしょうか?

 こうした問いに正面から取り組んできたのが、私が専門とする環境経済学です。環境経済学には、持続可能な経済発展(Sustainable Economic Development)論という研究分野がありますが、その中で、上記の問いとの格闘が繰り広げられてきました。

 ここでは簡単に概略だけを示しましょう。「何を維持すべきか」という問いに対して環境経済学が提示するのは、①人工的に作られる資本(モノを作るときに必要な機械や道具)、②環境・資源、③人の教育水準、の3つです。①は人工資本、②は自然資本、③は人的資本と呼ばれます(図1参照)。農業を例にして言えば、①はトラクターや鍬などの道具が該当し、②は農地やタネ、③は農家の人たちの能力が該当します。①〜③の要素が組み合わされて、稲や野菜などの農作物が生産されると考えるわけです。これら①〜③の要素を維持することによって、次世代の生産量が維持され、その消費から得られる個人の幸せの水準も維持されるでしょう。こうしたことを、数学的なモデルを使って理論化し、実際に各国(あるいは地域)のサステイナビリティが計測されています(その指標は「包括的富」や「新国富」などと呼ばれています)。

 用語が小難しく聞こえるかもしれませんが、発想としては実にシンプルです。将来の生産量を維持するために、いま何を守らなければならないかという視点から、経済学はサステイナビリティを考えているのです。このように経済学は、ともすれば曖昧になりがちな「サステイナビリティ」概念を明快に考えるための一つの有益なツールとなります(ですから、皆さんも好き嫌いは脇において、経済学の考え方に触れてみてください)。

 私の研究テーマを一言で言えば、「次世代に引き継ぐべき環境・資源をどのように考えるか」ということです。その際に私が注目しているのは「代替不可能性(=かけがえのなさ)」という概念です。この概念を導きの糸としながら、渇水時の水資源(日本のため池)や、オーストラリアの生態系保全(ランドケア)等の事例を基に、代替不可能な環境・資源のマネジメントのあり方を研究しています。将来的には、人間の幸せ(well-being)の理論に基づいて「自然の〈かけがえのなさ〉」を分析したり、「〈かけがえのなさ〉とは何か」といった哲学的な問題にも研究を発展させていきたいと思っています。また、人と自然のつながりを断ち切らない都市や農村の発展のあり方についても大きな関心を持っています。

 地球温暖化や種の絶滅など、私たちは人類史上かつてないほどの影響を地球に与えています。いま求められているのは私たちが地球市民として行動し少しでも良い地球環境を将来世代に残していくことです。そのための必須の教養として、サステイナビリティの考え方をぜひ身につけてください。時代や国を問わず、すべての人が「生まれてきて良かった」と実感できる社会をつくるためには何が必要か、「環境」と「経済」のレンズを通して一緒に考えましょう。

図1 経済学におけるサステイナビリティのとらえ方