南山の先生

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国際教養学部・国際教養学科

村杉 恵子

職名 教授
専攻分野 言語学(心理言語学 統語論)
主要著書・論文 Noun Phrases in Japanese and English: A Study in Syntax, Learnability and Acquisition (コネチカット大学博士論文:UMI及びコネチカット大学言語学科により印刷配付)
将来的研究分野 普遍文法と文法獲得
担当の授業科目 心理言語学

人間特有の文法知識と運用能力:その体系と獲得

人間には、種に特有の文法能力が生得的に備わっていると考えられています。ここで述べる文法能力とは、日本語の文法とか英語の文法とかといった、「言語」単位の文法ではなく、脳(言語野)に障害がなければ、人間誰しもがもつ普遍的な文法の知識体系を指しています。現代の理論言語学では、この普遍的な文法の中身と、それを基に子供がいつ、どのように、母国語の文法を獲得するのかについて解明することを、ひとつの目標にしています。

子供が言語を獲得する事実は、一見あたりまえのようにみえますが、そこには、いくつかミステリアスな要素が含まれています。たとえば、子供がいわゆる「学習」によって言語を習得するのだと考えてみましょう。親が教えたものを子供が学習する、と仮定すると、いくつか疑問点がでてきます。

まず、親の言う文は、必ずしも文法的な文ではありません。まわりの人のいう文をじっくりきいてみましょう。例えば、「ごはんが食べて、それから、おふろを入りなさい!」などと文法的ではない、言い間違った文も含まれていることに気付きます。そんな環境の中で、2歳のこどもですら、例えば「今日ね、もえちゃんとね、ごはんをたべてね、おふろにはいってね、おもちゃで遊んだの」というふうに、句や節ごとに「ね」を(正しく)入れて文を切りながら、聞いたことのない長い文を、自発的につくり出します。また、「パパはたばこ臭いし、阿部さんもたばこ臭くて、だめねえ」などと、批判めいた文法的な文を、2歳のこどもでも、ある日突然言い出します。このように、たった2歳のこどもでも、親が直接教えたはずのない法則に従って、親の教えていない、数限りない文をつくり出す能力をもっています。この特徴は言語を越えて、どの国の子供にも、(言語)障害がないかぎり、皆、同じく観察されます。

また、各家庭で親が子供に話す文が千差万別であるにもかかわらず、大人の母国語話者は、(1)は文法的で、表面的にそれとそっくりな(2)は非文法的であることを、一様に判断します。

  1. 僕は、言語学勉強したいから、南山受験する
  2. 僕は、言語学勉強したいから、南山受験する

これらのことから、人間がいわゆる「学習」のみによって文法を獲得しているとは言えないことが明らかとなります。つまり、質的にも量的にも不十分な(親からの)言語情報に基づいて、非常に短期間に、人間は、皆、等質な文法をもって無限の数の文を自発的に生成できるようになる言語システム(普遍文法)を脳に持っていると考えられます。

言語学とは、人間の脳に内在する言語能力について、理論的、実証的に研究する学問領域です。文法理論と言語獲得について、古典的な「理論と実証」の方法論を用いて、一緒に考えてみませんか。