南山の先生

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国際教養学部・国際教養学科

森泉 哲

職名 教授
専攻分野 対人・異文化コミュニケーション,社会心理学
主要著書・論文 Face concerns in interpersonal conflict: Elaborating on Face Negotiation Theory. 『社会言語科学』第15巻(共著, 2013年)
Exploring identity negotiations: An analysis of intercultural Japanese-U.S. American families living in the United States. Journal of Family Communication, 11. (単著, 2011年)
将来的研究分野 対人・異文化コミュニケーション研究
担当の授業科目 対人コミュニケーションなど

コミュニケーションを学ぶ

日本人の大学生のAさんはオーストラリアに留学し,受講している授業で白熱するディスカッションについていけないなあと感じて,どうしたらいいのかと思い悩んでいる状況について考えてみましょう。皆さんなら,この状況をどのように説明したり解釈したりしますか?

例えば,「なぜAさんは発言できないのか?」という視点で考えてみると,Aさんはもともと授業中に発言をすることが苦手で,人の前では自ら発言できない人なのではないかという個人の性格や特性にその要因を挙げる人もいるでしょう。また日本人は集団主義的な傾向が強いということから,お互いの気持ちや意図をはっきり伝えなくても,お互いにわかったような気分になっているという日本文化的な特徴からAさんの特徴をとらえる人もいるでしょう。

一方,「Aさんは発言できないことをどう考えているのか?」という視点から考えると,Aさんに聞いてみないとわからないとして,Aさんをいろいろな場面で観察したり,インタビューをしたりすることなどを通してAさんの語りに耳を傾け,沈黙をすることが良いことではないと考えつつも,かといって沈黙することだって悪いことではないのではないかというような両義的な考えが交錯している様子を描きだすことが可能かもしれません。

さらに,Aさん個人ではなく,「Aさんが置かれている大きな状況はどうだろうか?」という視点に立つと,Aさんがなぜオーストラリアに留学することにしたのか,それにはメディアなどの言説やもっと大きな社会・歴史構造が影響を与えており,日本人の沈黙は悪いことと思う考えがAさんに無意識的に培われてしまっているのではないかという解釈も可能かもしれません。またAさんの母語でない英語という使い慣れない言葉を使用しなければならないということからAさんが心理的に追い込まれて,自己効力感が充分持てていないのではないかと考える人もいるでしょう。

どの解釈・説明が皆さんは「正しい」とか「間違い」だと思いましたか?実はコミュニケーション行動は,おかれている状況や相手との関係性によることが多いので,これが「正しい」とか「間違い」という答えはないことが多いのです。コミュニケーションを学ぶということは,様々な視点から様々な解釈・説明があるということを理解しながら,自分とは異なる相手との「違い」を「『間』違い」と意味づけをしないあり方について学んでいくプロセスのような気がします。皆さんも何気ないコミュニケーションを複眼的な視点から考えていきませんか?