南山の先生

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国際教養学部・国際教養学科

鹿野 緑

職名 教授
専攻分野 バイリンガリズム、言語獲得、第二言語リテラシー、翻訳学
将来的研究分野 バイリンガル帰国子女の言語とアイデンティティ、第二言語における創造性と翻訳、第二言語リーディング方略
担当の授業科目 English Literacy, GLS English, 国際教養学入門、Special Topics (Global Studies), Special Topics (Sustainability Studies), 演習、アドバンスト演習、など。

バイリンガリズムと世界を見るレンズ(視座)

「あなたはバイリンガルですか?」私たちのとても身近なところに、あるいは世界のどこかに、二つ(またはそれ以上)の言語が併用されるという特徴的な言語状況をもつ国・社会・コミュニティーがあります。全く一つの言語しか使用されない国は、むしろ少ないかも知れません。また、私たちのまわりに、あるいは世界のどこかに、二つ(またはそれ以上)の言語を使用する話者がいます。これを読んでいるみなさんの中に、そのような人がいるかもしれません。

応用言語学のひとつの分野として、バイリンガリズム*という研究分野があります。先に述べたような、社会が二言語併用である状態(societal bilingualism)や、個人が二言語使用者である状態(individual bilingualism)に関する様々な現象や要因などを探ります。バイリンガリズムは、①個人のレベル、②家族間コミュニケーションのレベル、③国家・社会のレベル、④教育のレベル、などの面からも考えることができます。

社会が二言語(またはそれ以上)併用であることとは、国家が公用語を定めている場合(official bi/multilingualism)と事実上そうなっている場合(de facto bi/multilingualism)があります。例えば、前者の例として、シンガポールはマレー語、英語、標準中国語、タミール語の四つが公用語として定められていて、英語とともに各民族語が学校で教えられています。カナダでは、英語とフランス語が公用語ですが、地域差があるようです。どの言語を公用語とするかは、どのように決まるのでしょうね。一方、日本では教育のレベルで英語を推進していますが、教育は果たして国家のバイリンガリズムを押し進めることはあるでしょうか。押し進める必要性・妥当性も考えなければなりません。

では、人がバイリンガルであるとは、どのような状態でしょうか。二つの言語の両方で、完璧なネイティブスピーカーでなければならないのでしょうか?人の脳は、二つの言語をどのようなバランスで保つのでしょう。また、人をバイリンガルにする要因は何でしょう?子どものころからの置かれた環境でしょうか、それとも少し大人になってからの選択でバイリンガルになることもあるのでしょうか。また、人がバイリンガルであるとは、どのような意味をもつのでしょう。

私が所属する国際教養学科は、教育レベルでバイリンガル/トライリンガルを育てていますが、それは三つの言語を学ぶことによって、三つのレンズ(世界を見る視座)を得ることを可能にする、大きな経験となるはずです。言語は重要なコミュニケーションの道具でありながら、アイデンティティともかかわって、私たちの人間性の一部を形作っていきます。人や社会が二つ(またはそれ以上)の言語を獲得するということは何なのか、それを探るのがバイリンガリズムです。

*二言語以上のマルチリンガリズムも、ここでは便宜上バイリンガリズムとします。