南山の先生

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国際教養学部・国際教養学科

平岩 恵里子

職名 教授
専攻分野 国際労働力移動
主要著書・論文 『現代国際貿易の諸問題』(共著、中京大学経済学部付属経済研究所、2007年)
『国際経済学の基礎100項目(第5版)』(共著、創成社、2022年)
将来的研究分野 移民が経済にもたらす影響の考察
担当の授業科目 「経済学B /Ecnomics B」「サステイナビリティと国際経済 / Sustainability and International Economics」「Special Topics: Global Studies F (Economic Studies)」

なぜ人は国境を越えて働くのだろう?

 「フィリピンの人々にとって、幸せになるための手段の一つに過ぎないんです、海外で働くことは。」フィリピン出身のお母様と共に日本で暮らし、大学で一緒に学んでいたゼミ学生が言った言葉です。幼い頃から兄弟のように育った従兄弟たちや、やさしいおばあ様と会えない日々のなかで時折さみしそうな表情をするので、「家族が離れることなく一緒に暮らせるようになるといいよね」と言った時の答えでした。はっ、としました。経済学では、個人を「効用(幸せ)を最大にする」ために行動する主体として捉えます。幸せになるために何かを選択することは、置かれた環境に関わりなく、尊重されるべきことであり、そこに「かわいそう」を持ち込むことの傲慢さに気づいたのでした。
 彼の卒業論文のタイトルは「フィリピン人の人生の色」。シンガポールやドバイ等、フィリピンから海外に働きに行った親戚や友人にインタビューをし、それぞれの人々のストーリーを卒論にまとめました。とてもいい論文になりました。
 生まれた国以外の国で働く人々はますます増えています。"The Age of Migration"と言われるゆえんです。(渡り鳥という意味のmigrationは、移民を表します。)統計では世界の人口の3%が自国以外の国で働いていると言われています。3%と言ってもピンとこないかもしれませんが、例えば日本でも、海外から働きに来ている人はたくさんいます。アメリカなど移民が増えている国も多いです。さまざまな国の人々が共に働き、共に生活することは今に始まったことではないとは言え、移動コストや情報収集コストの低下と相まって、国境を越えて働く人々は増えているのです。経済のグローバル化は貿易や金融だけでなく人の移動にもあてはまります。
 一方、人々が国境を越えるのは経済的な理由からだけではありません。国内で起こる紛争など様々な理由で祖国を逃れる難民もまた増えています。少し前にはシリアからの難民に端を発した移民・難民問題に直面するEU(欧州連合)の姿がありました。今はウクライナの人々がポーランドなどに避難せざるを得ない状況が続いています。人が移動することに伴う困難もまたこの事実から学ぶことができます。
 国はそうした人々に関してどのように考え、どのように受け入れているのでしょうか。誰もが行きたい国に行けるわけではなく、誰に来てほしいか?は国際法上それぞれの国に委ねられています。日本はどうなのでしょうか。アメリカはどうでしょうか。また、ヨーロッパの国々の移民政策はどうなっているのでしょうか。
 学生の皆さんは、将来きっと海外の人々と肩を並べて働くことになるでしょう。働く企業の国籍に関わらず、経済活動はますます国を越えて盛んになっているからです。皆さんのなかには、ご両親の転勤で海外で暮らした経験のある人もいるでしょう。そうした経済活動は、モノが行っているわけでもカネが行なっているわけでもありません。人々がそれぞれに自分の人生において、世界という空間の舞台で行っているものです。先ほどの学生の言葉にしたがえば、「幸せ」になるために行っている、とも言えるでしょう。かつては、モノやサービスの移動が貿易理論として研究の対象となり、ヒトは移動しないことが前提とされていました。しかし、今では実際に多くの人々が国境を越えて移動していることに関心が向けられるようになり、研究も進んできました。
 そのような空間で行われている経済活動と人々の人生について、一緒に考えてみませんか。

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