南山の先生

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国際教養学部・国際教養学科

大竹 弘二

職名 准教授
専攻分野 近現代ドイツ政治思想
主要著書・論文 大竹弘二『正戦と内戦:カール・シュミットの国際秩序思想』(以文社 2009年)
担当の授業科目 「ドイツの政治と社会」、「ドイツ政治研究」

ドイツと日本―――その歴史と社会の共通性

ドイツの政治や社会について、どういう印象を持っているでしょうか。多くの日本人は現在のドイツ社会に対して、それほどはっきりしたイメージを持ち合わせていないのではないでしょうか。ドイツの歴史に詳しい人はいるでしょうし、とりわけヒトラーやナチスの暗い過去を思い起こす人も多いでしょう。しかし、現在のドイツが直面しているさまざまな政治・社会問題については、日本ではそれほど興味を持たれていないのかもしれません。かつてはドイツといえば真っ先に思いついた東西分断や「ベルリンの壁」なども、冷戦後に生まれたいまの若い人たちには遠い昔の出来事であって、これを知らない人もいるだろうと思います。いまの日本の私たちにとって、ドイツはとても遠い国のようにも思えます。

しかし、近現代のドイツについて知ることは、日本にとって非常に学ぶべきものが多いと言えます。実際、ドイツと日本が近代に辿った道は、多くの点で似通っています。開国後の明治以降の日本は、西洋先進国に追いつこうと無我夢中で自らを近代国家へと作り変えていきました。実はこれはドイツも同じです。日本から見れば西洋列強の一員に見える19世紀のドイツもまた、いち早く世界強国となっていたイギリスやフランスに追いつこうとして必死で近代化を進めました。ドイツという統一された国民国家が、1871年まで存在しなかったことを忘れてはなりません。当時のドイツ人たちもまた自分たちが後進的であると感じて悩んでいたのであり、このような悩みの中からこそ、ヘーゲル・マルクス・ニーチェなど、19世紀ドイツの偉大な哲学者・経済学者・社会学者たちの思想が生まれてきたのです。しかしながら、19世紀後半にようやく「一人前の」国家になったドイツは、やがてその進路を誤ります。急激な速さで他の列強に肩を並べるに至った「遅れてきた国民」としてのドイツは、他国に比べてナショナリズムが盛り上がりやすい状況にありました。このようなナショナリズムの熱狂が、最終的にナチズムによる悲惨な戦争に行き着くことになります。

戦後のドイツは、ナチズムの惨禍をもたらした過激なナショナリズムや民族主義への反省を出発点にしていると言っていいでしょう。そして、単に過去を振り返り、戦争を反省するだけではなく、未来へ向かって、国際的にも国内的にも、多くの国民・民族が共生できる社会を築き上げようと努力してきました。EUのもとで進められているヨーロッパ統合に対して、ドイツが一貫して積極的に関わってきたのは、その表れであると言えます。また、戦後のドイツは、難民・労働者・移民として、トルコ人を始めとする多くの外国人を受け入れてきました。その結果、現在のドイツは、かつてのように単一のドイツ民族から成るのではなく、異なるさまざまな文化を出自とする人々を数多く抱えた多文化社会になりつつあります。もちろんこれは、多文化共生というきれい事で済む話ではなく、外国人労働者に職を奪われたと感じているドイツ人失業者の不満や、極右団体による外国人排斥なども大きな社会問題になっています。しかし、このように現代ドイツが取り組んでいる諸問題は、グローバル化の時代に生きる日本も今日同じように直面している、もしくはこれから直面するだろう重要な問題にほかなりません。過去においても現在においても、ドイツという国は日本の進むべき道に大きなヒントを与えてくれる国であり続けているのです。