学部別インデックス
外国語学部・スペイン・ラテンアメリカ学科
ROJAS ESPINOZA,Lorena Sue
職名 | 講師 |
---|---|
専攻分野 | 外国語としてのスペイン語教授法、異文化コミュニケーション、応用言語学 |
主要著書・論文 | ⼦ども期における外国語通訳経験の⻑期的影響:⽇本で育った外国⼈に対するインタビュー調査と考察,名古屋市立大学人間文化研究科, 42, 233-247, 2024年7月. |
将来的研究分野 | 通訳法を取り入れたスペイン語教育の教材設計 |
担当の授業科目 | スペイン語圏異文化コミュニケーション論B、スペイン語通訳法、スペイン語上級講読など |
ことばを超える理解へ: 異文化コミュニケーションとその実践的意義
私の専門は、外国語としてのスペイン語教育と異文化コミュニケーションです。最近では「異文化コミュニケーション」という言葉を耳にする機会が増えましたが、皆さんはそれが何を意味するのかご存じでしょうか。異文化コミュニケーションとは、異なる文化背景をもつ人々との間での言語的・非言語的なやりとりを円滑に行うための知識と実践を指します。たとえば、人と人との距離感は、国や文化によって大きく異なります。スペイン語圏では、挨拶としてハグをしたり、頬と頬を合わせて挨拶を交わしたりする文化もあります。一方で、「沈黙」が表す意味も文化によってさまざまで、肯定、否定、尊重といった異なる解釈がなされることがあります。スペイン語圏の一部の人には、「沈黙」はあまり好意的に受け取られないことがあります。特に友人の間柄で、会話の中で沈黙が生じると、「退屈しているのではないか」「相手に不快な思いをさせてしまったのではないか」などといった不安や気まずさを感じる人も少なくありません。
異文化コミュニケーションを学ぶ利点の一つは、こうした文化的な衝突を未然に防ぐことができる点です。たとえば、「時間」の概念は地域や文化によって大きく異なります。スペイン語圏の一部では、友人との約束で「17時にパーティーが始まる」と言われても、実際には「18時頃」に始まることも珍しくなく、時間に対する感覚が柔軟です。一方で、仕事に関する時間の捉え方は、日本と似ている側面もあり、私的な時間と就労時間を明確に区別して使い分ける人も多く見られます。「時間」に対する感覚の違いを理解しているかどうかで、対人関係のスムーズさや信頼関係の構築に大きな影響を及ぼすのです。
さらに、異文化コミュニケーション研究には、通訳や翻訳に関する研究も含まれています。なぜなら、言語の背後には、その文化特有の価値観や世界の見方が深く根付いているからです。通訳や翻訳の過程では、言葉を置き換える作業だけではなく、「目に見えない文化的背景」を的確に読み取り、それを適切に別の文化と言語の枠組みの中で表現し直す高度な行為です。たとえば、「木洩れ日(こもれび)」という日本語は、木の葉のすき間から差し込む光を詩的に表す美しい言葉ですが、スペイン語をはじめとする他言語にはこれに対応する単語が存在しません。このような場合、翻訳者や通訳者は言葉の意味だけでなく、その文化的背景や感覚までをも伝える工夫が求められます。
また、異文化コミュニケーション研究には、「移民」に関する研究も含まれています。たとえば、「同化」「適応プロセス」「多文化共生」などといったテーマは、この分野でとても重要な研究対象です。「同化」とは、たとえば、ある国に移住した人が、その国の言語だけを使うようになり、自分の国の言葉や食文化、価値観などから離れるといった状態で、自分の文化的アイデンティティが薄れてしまう危険もあります。一方、「適応」とは、たとえば、日本に住んでいる外国出身の学生が、大学では日本語で授業を受け、日本の習慣に従って生活しながらも、家庭では母語を話したり、宗教的な行事を大切にしたりするような状態を指します。
このように、異文化コミュニケーションを学ぶことは、知識の習得だけではなく、他者を理解し、自分自身の文化を相対化する視点を持つことにつながります。多様な価値観と共に生きる現代社会において、こうした視点や態度は、国際交流だけでなく、日常の人間関係においても大いに役立つのです。