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外国語学部・スペイン・ラテンアメリカ学科
松井 さなえ
職名 | 講師 |
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専攻分野 | スペイン語言語学・音声学 |
主要著書・論文 | 松井 (2020).「日本語母語話者によるスペイン語の音声単語認識」『スペイン語学研究』, |
将来的研究分野 | スペイン語に関する音声/言語データベースの構築・活用 |
担当の授業科目 | 「初級スペイン語」「中級スペイン語IC, IIC」他 |
スペイン語を聞いて理解するのは(なぜ)大変なのか?
私は、人間の言語処理に関する研究をしています。人間がある単語を聞くと、その単語と音が類似している複数の単語が候補として同時に「活性化」します。例えば、日本語を母語とする人が「価格」という単語を聞くと、脳内では最初の「か」という音から始まる複数の単語候補が一気に探索され、続きの音が聞こえるごとに単語候補が絞られ、最終的に正しい単語に辿り着くということです。このようなプロセスでは、活性化する単語候補の数が多いほど、単語を認識するまでの処理時間が長くなったり不正確になったりします。例えば、日本語を母語とする人が「価格」という単語を聞いた場合、「カカシ、係、踵(かかと)」のような多くの単語が候補となり得ますが、「かぼちゃ」という単語にはそのような類似した単語が少ないため、「価格」という単語は「かぼちゃ」よりも認識するのに時間がかかりやすいということです。
次に、外国語を聞く場合について考えてみましょう。日本語を母語とする人は英語のLとRの音を聞き分けることが難しいという話は、よく知られています。それでは、英語のLとRを聞き分けられないと何が問題なのでしょうか?英語を母語とする人がrightという単語を聞く場合は、rideやriseなどの単語が候補となりえます。日本語を母語とし、英語のLとRをうまく聞き分けられない場合は、rightという単語に対して、rideやriseだけではなくlightやlie、lionなども活性化することになります (左図)。つまり、英語のLとRの音を聞き分けられないと、(英語を母語とする人よりも)多くの単語候補が想起され、単語を認識するのに時間がかかったり正確さが低下したりするということです。このように、英語は日本語とはかなり異なる音の体系を持つことから、英語の単語候補がたくさん活性化することになります。
スペイン語は、日本語と音が似ているといわれる言語です。したがって、日本語を母語とする人がスペイン語の単語を聞く場合には、先述したようなことは起こりにくいかもしれません。しかし、日本語とスペイン語の音が似ているからこそ起こりうることがあります。それは、「両言語の」単語が活性化するということです。複数の言語の知識を持つ人(学習者も含む)は、一方の言語しか聞いていない時でも、もう一方の言語も同時に活性化しています。例えば、queso /keso/ (チーズ)というスペイン語の単語は、「今朝、ケシ、血相(けっそう)」などの日本語の単語に類似しています。日本語とスペイン語の知識がある人がquesoという単語を聞くと、日本語の単語候補まで活性化しうると考えられます(右図)。これらのことから考えると、私たちがスペイン語を使う上での大変さの要因の1つは、スペイン語の単語(の一部)が日本語に似ているということにあるのかもしれません。
以上のように人間と言語について考えてみると、外国語を使うことが難しい理由や、学ぶ言語によって求められる能力が異なりそうだということが分かるのではないでしょうか。このような知見を活かしながらスペイン語を学び、国内外での活躍を目指す方のご入学をお待ちしています。
また、ここまで述べてきた研究内容とはテーマがやや異なりますが、私は多様な国籍を持つ人々が暮らす地域で育ちました。「異なる言語を母語とする人々が共に生活すること」について考えさせられるような経験が多くありました。そうした経験を通じて、人と言語の関係に興味を持つようになり、現在の研究にもつながっています。このような問題に興味を持っている方のご入学もお待ちしています。

