学部別インデックス
外国語学部・スペイン・ラテンアメリカ学科
牛田 千鶴
職名 | 教授 |
---|---|
専攻分野 | 教育学・ラテンアメリカ地域研究 |
主要著書・論文 | 『ラテンアメリカ現代史Ⅲ』(共著 山川出版社 2006) 『ラテンアメリカの教育改革』(編著 行路社 2007) 『現代中米・カリブを読む』(共著 山川出版社2008) 『ラテンアメリカ世界のことばと文化』(共著 成文堂 2009) 『ラティーノのエスニシティとバイリンガル教育』(単著 明石書店 2010) 『ことばと国家のインターフェイス』(共著 行路社 2012) 『南米につながる子どもたちと教育』(編著 行路社 2014) 『ラテンアメリカ 地球規模課題の実践』(共著 新評論 2021) |
将来的研究分野 | 「米国および日本におけるラテンアメリカ系移民児童の母語教育(バイリンガル教育を中心として)」 「ラテンアメリカにおけるマイノリティ言語と教育」 |
担当の授業科目 | 「ラテンアメリカの文化と社会」「ラテンアメリカ史」「スペイン・ラテンアメリカの文化入門」「演習」他 |
多様性を誇るスペイン語圏の国々
皆さんは、スペイン語を母語とする人々が、世界中にどれほど存在するか知っていますか?その数は約4億人で、世界でも極めて話者の多い言語となっています。スペイン語圏で最も人口が多いのはメキシコで、第2位がコロンビア、第3位がスペインと続きますが、スペイン語圏出身の移民も対象に含めるのであれば、なんとアメリカ合衆国が第2位となります。
アメリカ合衆国には、ロサンゼルス、サンフランシスコ、フロリダ、コロラドなど、スペイン語の地名が数多く見受けられます。その背景には、今日の西南部諸州の大部分が、かつてスペインの植民地だったという歴史的事情があります。メキシコ領を経てアメリカ合衆国の領土となってからも、これらの地域には数多くの移民がラテンアメリカ各地から到来し、定住するようになりました。ヒスパニックあるいはラティーノと呼ばれる彼らの人口は6,210万人(2020年国勢調査)に達し、全米でも最大のエスニック・マイノリティとなっています。
多文化社会の広がりとともに、英語以外の言語が街を飛び交うことへの拒絶反応を示す地域も出てきていますが、英語とスペイン語を自由自在に使いこなすバイリンガル話者への需要が経済界を中心に高まっているのも事実です。
ところで、スペイン語を公用語とする国は世界にどれほどあるのでしょう。ヨーロッパにひとつ、アフリカにひとつ、そしてラテンアメリカに18ありますので、全部で20カ国ということになります。独立国ではありませんが、カリブ海に浮かぶアメリカの自由連合州プエルトリコを加え、21の国と地域、とする場合もあります。
これほど広範囲で多様なスペイン語圏諸国の中で、私が今もっとも大きな関心を寄せているのは、南米大陸にあるパラグアイという国です。人口678万人ほどの小さな国ですが、人種的にも多様で、スペイン語のほかにグァラニー語をはじめとする先住民言語を母語とする人々がいます。
パラグアイ政府は、1992年に公布された憲法で、スペイン語とグァラニー語を公用語に定めました。そして、植民地化の過程で移植されたスペイン語と、土着の言語であったグァラニー語とを用いるバイリンガル教育が、全国各地の小学校で実施されることになりました。ラテンアメリカの他の国々でも、先住民言語とスペイン語によるバイリンガル教育の実践例はしばしば見られますが、スペイン語を母語とする子どもたちを含む、すべての子どもたちを対象として展開されているのは、パラグアイのみです。国民アイデンティティの共通の基盤として、スペインによる征服・植民地化以前から存在していた土着の言語文化を尊重し継承していこうとするパラグアイ国家の意思が、そこには垣間見られます。
日系人の様々な活躍を背景として、南米随一の親日国としても知られるパラグアイは、インフラ整備や農業技術開発を中心に、日本政府が経済・技術協力の対象として重視してきた国でもあります。パラグアイに限らず、ラテンアメリカには、国際的な支援・協力を必要とする国々が数多く存在します。「道具」としての言語を駆使して心を通わせ、異文化に生まれ育った彼らと私たちとが互いに助け合い学びあっていけるとすれば、それほど素晴らしい交流はありません。
多様性を誇るスペイン語圏諸国・地域の溢れるほどの魅力について、講義室で直接皆さんにお話できる日が来ることを、今から心待ちにしています。