南山の先生

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外国語学部・スペイン・ラテンアメリカ学科

永田 智成

職名 教授
専攻分野 スペイン政治史/比較政治学
主要著書・論文 『フランコ体制からの民主化:スアレスの政治手法』(単著、木鐸社、2016.)、『連邦制の逆説:効果的な統治制度か?』(共著、ナカニシヤ出版、2016.)、『スペインの歴史を知るための50章』(共著、明石書店、2016.)など
将来的研究分野 フランコ体制末期の統治メカニズム
高速道路および高速鉄道の整備とスペイン政治の発展
担当の授業科目 スペイン政治、スペイン史B、スペイン特殊研究B

スペイン現代史と比較政治学

タイトルからして難しそうで、つまらなそうで、すでに読む気をなくしていると思います。政治学というのはとっつきにくい分野ですからね。気持ちはよくわかります。少しでも興味が持てるような話を書ければよいのですが...。

私が研究に興味を持ったきっかけは、「民主化」でした。私が大学生の頃イラク戦争が勃発し、アメリカ主導でイラクの民主化が行われました。しかしその民主化は遅々として進まず、被害が拡大していきました。当時の私に民主化が難しい課題なのだと思わせるのに十分な出来事でした。イラクに限らず、アフガニスタンもアフリカ諸国も民主化に苦戦していました。人類は民主化のやり方がわからないのではないか。成功する民主化の方法がわかれば、大きな発見になるかもしれないと(思いあがり)、研究の世界に迷い込んでしまったのでした。

ではなぜ私がスペインの研究を始めたのと思いますか?それはスペインの民主化が世界でも珍しい成功した(とされる)民主化だったからです。スペインでは独裁者の死から約10年でEC加盟を果たしています。ECに加盟したということは民主化がスムーズだったという証拠です。スペインの事例から民主化が成功するための要素を抜き出して、他の事例にも適用できるようにと(願って)理論化したのが私の研究です。

このような研究は比較政治学の発展に資するものであると考えています。多くの分野は、学問の名前が目的となっています。誤解を恐れずに言えば、例えば、日本政治史という分野は日本の政治史を研究します。ところが比較政治学は、政治を比較することがその学問の目的ではなく、手段でしかありません。比較した後、どうするかは自由です。なぜこのような誤解を招きやすい名前なのか、他に適当な名前がないからなのか、私にもよくわかりませんが、比較政治学のユニークな点です。

要するに、私は比較政治学への貢献を念頭に置きつつ、スペイン政治を研究するという二足の草鞋を履いている研究者です。自己紹介の時、「比較政治学」を専門としていて、フィールドはスペイン、アプローチは歴史です」と述べたり、場合によっては、「政治学からスペイン史を研究しています」と言ったりしています。他人はコウモリのようだと思うかもしれませんが、個人的には一粒で二度美味しいと思っています。

さて、スペイン現代史を勉強することの魅力は、何も民主化の勉強だけではありません。日本では、スペインが覇権をなした大航海時代の方が有名ですが、20世紀のスペインはまさに激動の歴史でした。二人の独裁者が生まれました。王様が国を出ていってしまったため、共和国になったこともありました。内戦も経験しました。しかし二度の世界大戦は共に中立を宣言し、国としては戦っていません。なんとも不思議なことです。そして今ではEU主要国のひとつになっています。私にはスペインが経験してきたことそのものが、壮大な社会実験のように思えます。

いかがでしょうか。スペイン現代史に興味を持って頂けましたでしょうか。ある人は、相手の歴史を知ることは相手への敬意、自国の歴史を知ることは教養と言っていました。別に難しい理屈を付けなくても、他国のことを知ると、自分が常識であると思ってきたものが、そうとは限らない世界があるとわかります。そういう経験をしてみたい方、お待ちしています。