南山の先生

学部別インデックス

外国語学部・ドイツ学科

RIESSLAND,Andreas

職名 准教授
専攻分野 ドイツ語教育、メディア論
主要著書・論文 「ドイツのアブストラクトフィルムと広告」
「エンターテイメント技術としてのプロパガンダ」
将来的研究分野 日本の自動車広告
担当の授業科目 基礎ドイツ語・ドイツ語コミュニケーション

もう一つの語学学習

この話は私が何年も前にビルマのマンダレー市で出会った一人の老人から聞いたものである。バスターミナルでのことだった。私たちは日陰のベンチに並んで座っていたのだが、その老人は私が手にしているドイツ語の旅行ガイドに気付くと、ドイツ語で話しかけてきたのである。そしてこんな風に語り始めたのだった。

「まだ少年だった頃、私たち一家はラングーンに住んでいた。私の父がそこの大学で働いていたんだ。ある日、隣の家にドイツ人の家族が引っ越してきた。父親は医者で大柄で厳しい目つきの人だったが、奥さんはとても優しかった。そして彼らにはちょうど私と同じ年くらいの娘がいたんだ。エディスという名前でね、鮮やかなブロンドで、本当にきれいだったなぁ。私たちはすぐに友達になってよく一緒に遊んだよ。もちろん私はドイツ語なんて全然できなかったし、英語がほんの少しわかるくらいだったけど、エディスが教えてくれた僅かなドイツ語だけでなんかうまくいっていたんだよ。私たちは2年間の間、ほとんど毎日のように一緒に遊んだものさ。だけどこの医者の一家はドイツに帰ることになったんだ。エディスと私にはとてもつらいことだった。私はその時彼女に約束したんだ。ドイツ語をうんと勉強してドイツに行って彼女と結婚するってね。エディスの父親はそんな私の約束なんて知る訳もなかったけど、沢山のドイツ語の本をくれたんだ。わざわざ持って帰るほどでもないものがいっぱいあったんだね。こうして一家はドイツへと旅立っていってしまった。残された私は全ての本を何度も繰り返し読み続けた。エディスに手紙も書いたし、彼女からの返事も2回来た。だけどそこで戦争になり、全ては混乱しゴタゴタになってしまった。エディスからの音信は完全に途絶えてしまったんだ。私もドイツへ行くことはついに一度もなかった。だけどあの時の本は今でも持っているし、毎日のように読んでいるんだよ。ドイツ語はね、私にとってはエディスの言葉なんだ。ドイツ語を読んだり話したりすると、私はいつも彼女のことを思い出すんだよ。」

語学学習がこんなロマンチックなこともあり得るのだ。