南山の先生

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外国語学部・ドイツ学科

太田 達也

職名 教授
専攻分野 外国語教育学,ドイツ語教育,第二言語習得,応用言語学
主要著書・論文 Die Wirkung von Fehlerkorrektur auf Überarbeitungsprozesse und -produkte beim fremdsprachlichen Schreiben. Eine empirische Studie unter japanischen Deutschlernenden. (単著) München: Iudicium.
『NHK CDブック ラジオドイツ語講座 からだで覚える実践ドイツ語』(共著,NHK出版)
『ドイツ語おもしろ翻訳教室』(単著,NHK出版)
『ニューエクスプレスプラス ドイツ語』(単著,白水社)
Wörterbuchbenutzung und Aktivierung des grammatischen Wissens - eine empirische Studie mit japanischen Deutschlernenden. (単著) In: M. Hoshii / G. C. Kimura / T. Ohta / M. Raindl (Hrsg.) (2010): Grammatik lehren und lernen im Deutschunterricht in Japan - empirische Zugänge. München: Iudicium, pp. 88-102.
Was denkt der Lerner, was sieht der Lehrer? - Schreib- und Korrekturprozess von Deutschlernenden und -lehrenden. (単著) In: C. Fandrych / I. Thonhauser (Hrsg.) (2009): Fertigkeiten - integriert oder separiert? Zur Neubewertung der Fertigkeiten und Kompetenzen im Fremdsprachenunterricht. Wien: Praesens Verlag, pp. 107-124.
将来的研究分野 外国語学習における明示的指導および修正フィードバックの効果,ドイツ語教材開発,外国語学習環境の構築,外国語教員養成・研修に関する調査研究
担当の授業科目 ドイツ語,上級ドイツ語作文,ドイツ語通訳法,ドイツ語科教育法,基礎演習,演習

学習者中心の外国語教育とは?

近年確立されつつある比較的新しい学問分野のひとつに、「外国語教育学」というものがあります。これは、第二言語(母語以外の言語)の習得メカニズムを研究する第二言語習得研究をはじめ、認知心理学、社会言語学、教育学など、関連するいろいろな分野の知見を取り入れつつ、外国語教育のあり方について研究する学問です。私のゼミは、この「外国語教育学」をテーマとしています。そこで取り上げられるテーマは、「人はどのように外国語の読解能力/作文能力/文法能力/コミュニケーション能力を身につけるのか」といった言語習得的なものから、「机の配置はどのような形が効果的か」「どのような学習環境を構築すべきか」といった教授法や学習環境デザインをめぐる問題、さらには、「なぜ大学で第二外国語を学ぶ必要があるのか」「大学においてはどのような外国語能力を身につけさせるべきか」といったカリキュラムや言語政策レベルの問題に至るまで、じつにさまざまです。しかしそのどれもが、自分自身のこれまでの学習やこれからの学習に直結する問題であり、ゼミでは毎回、参加者からさまざまな意見やアイディアが飛び出し、議論が尽きません。

最近の外国語教育をめぐる議論の中では、キーワードとしてよく「学習者中心」ということが言われます。一昔前であれば、外国語教育と言えば「教師が学習者に知識を伝授し、指導する」と考えられていましたが、今はそうではなく、「教師は学習者が自ら知識や能力を発展させていくのを助けるもの」と考えられるようになってきました。つまり主役はあくまで「学習者」であり、教師はその「サポート役」というわけです。

「文法指導」(あるいは「文法の学習」と言った方がいいかもしれませんね)を例に考えてみましょう。よく「外国語の基礎はやはり文法だ」と言われますが、果たして文法知識を教えさえすれば、それで学習者はその言語を正しく話したり書いたりできるようになるのでしょうか。もちろん、答はノーです。文法規則についていくら細かく知っていても、それがイコール「正しく話せる/書ける」わけではありませんね。では、知識に加えて訓練を施せばそれでよいのでしょうか。いえいえ、単なる知識の吸収と訓練だけでは、必ずしも学習者個人の頭の中における文法能力の発展にはつながりません。学習者が自分の頭で「これはこういう仕組みなのかな?」「こう言えば通じるのかな?」と試行錯誤しつつ自らの知識を構築し、能力を発展させていくような「認知プロセス」の機会が十分に与えられないからです。

そもそも知識というのは、Aさんの頭の中のものとBさんの頭の中のものとで同じであるはずがありません。ですから、仮にAさんとBさんが同じことを「教わった」としても、AさんとBさんとでは興味・関心も違いますし、それまでの経験も、また持っている世界観も違うのですから、Aさんの頭の中とBさんの頭の中ではそれぞれ違ったかたちで知識が「再構築」されていくはずです。そのように考えるならば、文法能力の発展を促すには、単に「客観的知識」としての文法知識を学習者の頭に「植え付ける」のではなく、学習者が自ら主体となって学んでいく環境をいかに構築するか、ということが重要になってきます。

このように、文法ひとつとってみても、その能力をどのように発展させていくかということを考えると、単に「うまく教えればよい」というわけではないことがおわかりでしょう。私のゼミではこうした問題について、参加者の体験を交えながら、ドイツ語の文献講読、グループワーク、プレゼンテーションなどを通じて、毎回深く議論し、考えています。