南山の先生

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外国語学部・フランス学科

小林 純子

職名 教授
専攻分野 社会学、教育学
主要著書・論文 『児童の放課後活動の国際比較』(共著、福村出版、2012年)
『学校選択のパラドックス』(共著、勁草書房、2012年)
将来的研究分野 子どもの文化実践の社会学的研究
担当の授業科目 フランスの社会、アカデミックフランス語

異文化研究の心得

「教育」ということばが含意する範囲は広範です。このことばを聞いてひとまず連想するのは「学校」でしょう。けれども、教育分野の研究の対象は教科書、試験、部活動、放課後、習いごと、家族、子ども、若者などさまざまです。私の研究が対象にしているものは「教育」や「学校」というよりも、教育や学校との関連でとらえられる「親」や「子ども」です。かれらは「保護者」や「生徒」であるだけでなく、実際にはさまざまな社会的文化的背景や歴史をもち、現在を生きる個人です。このような個人が、教育的な活動や学校での活動、学校外の時間の過ごし方をどのようにとらえ、どのように経験するのか、かれらはどのようにして「保護者」や「生徒」となるのかを明らかにすることが私の関心です。

ところで教育学や社会学に限らず、研究にはさまざまなアプローチがあり、問いの切り口は無数にあります。たとえば、「日本とフランスの子育て支援にどのような違いがあるかを調べる」とか、「子どもは儀礼を通じてジェンダーをどのように獲得するのかを考える」とか、「子どもの余暇の過ごし方にはどのような違いが見られるか、その原因は何かを追求する」などです。とはいえ、この「問い」は何でもいいから思いついたことを発すればよいというわけではありません。その「問い」をおもしろいもの、説得力をもつものとするためには、さしあたりつぎのふたつの点に留意すると良いでしょう。ひとつは、ある分野に限らずさまざまな分野に学ぶことです。もうひとつは、外国語の習得を通して、議論できる範囲を広げることです。外国語で書かれたものを読めるようになるということは、それまで知り得なかった事実、論理や考え方を学ぶことにつながるからです。教育研究に限らず、このような「問い」を自分でたてられるようになること、その「問い」を自分で考えて、それを自分のことばで表現できるようになることが大学では重視されます。それは大学を卒業してからも、いつかどこかで役に立ちます。そうはいっても、自分で調べて、外国語を習得して、おまけに別の分野にも学ぶなんて、なんだかやることがありすぎて、本当にできるのか? と、不安を覚えるかもしれません。じっさい調べれば調べるほど、本を読めば読むほど、知識が増えれば増えるほど「分からないこと」も増えていくと思います。でも自分の知らないことが分かるということは、それだけで価値のあることなのです。

外国語(ここではフランス語)の習得は容易ではありません。地道な努力が必要です。はじめは「もううんざりだ」と思うこともあるかもしれません。そういうときは、「まあ、こんなものかな」と息抜きでもしながら続けていけばよいのです。習得したあとの楽しさは、なにものにもかえられません。フランス語で考えて、フランス語で表現できるようになると、日本語で表現していた自分とは違う「わたし」を発見できるようになります。それは「わたし」が、ただ○○人らしくなるとか、○○人らしくなくなるとか、そういうこととは少し違います。筆者の経験では、たとえば日本語でうまく表現できなかったことが、フランス語を習得したことで表現できるようになる、別のいいかたをすると、フランス語を生きて日本語が上手くなるとか、日本で生まれ育った「わたし」が見たフランスと、その文化や社会のありかたを通じて、日本の社会や教育事情をこれまでとは違った見方で理解しているとかいうようなことですが、それはひとによってそれぞれ違った体験となることでしょう。そのような体験の場を、講義やゼミで提供していくことができればよいと考えています。