南山の先生

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外国語学部・フランス学科

吉澤 英樹

職名 教授
専攻分野 20世紀フランス語圏文学・文化
主要著書・論文 『ブラック・モダニズム』(編著、未知谷、2015)Pierre Drieu la Rochelle(単著、L‘Harmattan, 2015)
将来的研究分野 フランスにおける保守的文化相対主義、人類学視点からの文学研究
担当の授業科目 「フランス語圏研究」「フランス文学史」

あなたの目に映った「私」と本当の「私」?

私は、20世紀前半に起こった二つの戦争に挟まれた戦間期の文化現象を、とりわけ文学を中心に「モダニズム」というキーワードから研究しています。人類が初めて経験した近代戦争である第一次世界大戦はヨーロッパの文化に多くの爪痕を残しました。人類の輝かしい未来を保証するはずだったテクノロジーがヨーロッパの人びとに厄災をもたらし、一方でヨーロッパから発生したこの戦争は世界全体を悲惨な戦いへと巻き込んでいくことになったのです。それまでヨーロッパ文化の中心地として誇りを持っていたフランス人たちは戦争が終わると、自分たちの文明が衰退に向かっているという気分にとらわれるようになります。その一方で、戦争によって外界へと開かれた彼らの目はいやおうなく他者の存在を無視することができなくなり、絶対的なところに身を置いていた自身の立ち位置が揺らぎ、相対化されていく感覚を味わうことになります。この「かつてない」時代に似つかわしいような「かつてない」形式と内容を創造しようとした芸術がモダニズムといえます。一般的に「モダン」な芸術というと「独創的」であるとか「最先端」「異端」といった前衛的なイメージがあるかもしれませんが、いっぽうで「普遍」「絶対」という言葉で表されるところとは別なところに 自分たちの新しいアイデンティティを模索した試みもありました。自分が帰属する場の絶対性が他者との出会いによって揺らぎ、自身のルーツを新たに探求していくのですが、彼らの試みは時には足を踏み外すこともありました。その意味合いも込め、このような一部のモダニストたちの根幹にある態度を「保守的文化相対主義」と名付け研究しています。

外国語学部に入ると、みなさんはまず外国語そして外国の文化を学ぶことになります。また海外フィールドワークを通して自身のルーツが相対化され、客観的な視点から見えてくる経験をすることになるでしょう。他者の文化との出会いによってこれまでの常識が覆され、自身のアイデンティティが揺らぐこともあるでしょう。このとき、みなさんはもう一度自分自身について深く考える状況に置かれることと思います。このようなとき、先人たちはどうしていたのか。私が研究しているモダニズムの時代の相対主義者は多くのことを教えてくれます。多くの人びとが、他者に対して極端に攻撃的になったり、自己否定的になったりなど、あまり幸せでない方へ傾倒していくいっぽうで、一部のモダニズム芸術家たちの中には新しい時代を作っていくような新しい生き方とアイデンティティを作り直そうとする動きも見られました。今日は経済や文化など、あらゆる局面でグローバル化が完成しつつあるいっぽうで他者に対する不寛容さが世界を覆いつつある時代でもあるといえるでしょう。このような状況の中で、私たちはどのように自分たちのアイデンティティを位置づけながら、他者の言語を学び、コミュニケーションを行っていけば良いのか。100年前のフランスでの事例を研究しながら、私はこのような問題に取り込んでいます。そして大学では、そこから生まれた研究成果を学生の皆さんとアクチュアルな問題として共有できるように、日々授業に取りいれようと頑張っています。