学部別インデックス
外国語学部・英米学科
今井 祥子
| 職名 | 講師 |
|---|---|
| 専攻分野 | 北米地域研究、食研究、文化地理学 |
| 主要著書・論文 | The Globalization of Asian Cuisines: Transnational Networks and Culinary Contact Zones, 共著(J. Farrer, D. Wank, ほか5名), 2015年8月, Palgrave Macmillan, 248 p. (執筆担当部分:chap. 4 “Umami Abroad: Taste, Authenticity, and the Global Urban Network,” pp.57-78 (22 p.)) Globalization, Food and Social Identities in the Asia Pacific Region, 共著(J. Farrer, J. Akamine, ほか14名), 2021年2月(reissued), Sophia University Institute of Comparative Culture, 299 p. (執筆担当部分:chap. 16 “Nobu and After: Westernized Japanese Food and Globalization,” pp. 271-286, (16 p.)) |
| 将来的研究分野 | グローバル化する日本食の地理学的展開、日本における菜食主義の可能性 |
| 担当の授業科目 | Academic English, Special Topics in English, アメリカの文化、演習 等 |
「きょう何食べた?」から食研究をはじめませんか?
みなさんは今日、何を召し上がりましたか?ご家族の方が作ってくださった温かい食事でしょうか。コンビニエンスストアやスーパーで購入した調理済みの食品でしょうか。あるいは、レストランやカフェで外食をされた方もおられるかもしれません。料理の種類は日本食でしょうか、それとも外国の料理でしょうか。ところで、みなさんはご自身が口にされた食べ物が、どのようにして食卓にのぼっているかご存知ですか?たとえば、農家の方が大切に育てた野菜はどのようにして市場やスーパーに運ばれ、そして誰がそれを購入し、調理したのでしょうか。おおよそのイメージはついても、ひとつひとつの食べ物についての詳細な背景は、意外と分からないものではないでしょうか。現代社会では、私たちの多くは消費者として「フードシステム(食料の生産から消費に至る一連の流れ)」に参加し、そこから便利に食べ物を得ています。しかしその一方で、食べ物の生産者の顔や、作られた背景は見えづらくなってきているといえます。便利かつ安価に安全な食べ物が手に入る時代になったからこそ、いま一度、私たちが生きていく上で不可欠な「食べ物」のことについて深く考えてみる価値はあると思います。
私がこうした食べ物の背景や文化に興味を持つようになったのは、幼少期の個人的な経験がきっかけでした。両親の仕事の都合でアメリカ合衆国に住んだ時、まだ幼かった私は日本のお菓子が恋しくなりました。アメリカのスーパーマーケットで、なんとなく見た目が似ているお菓子を買ってもらい、口にするとびっくり。想像もしなかったフレーバーや強い香りが鼻と口を刺激したのです。なかなか思うような味が見つけられず、別のものを試しては落胆する毎日でした。ところが、帰国後に奇妙なことが起こりました。あれほどがっかりさせられたアメリカのお菓子を日本でたまに見かけるたび、当時の懐かしい思い出やアメリカの風景があふれるように思い出されたのです。味覚と記憶の関係はさまざまな文学作品でも取り上げられていますが、幼いながらに「食と人間の結びつき」の不思議さを実感した出来事でした。その後、大学で交換留学をする機会を得て再び渡米した時、現地での多様な食文化への興味がいっそう強まりました。そして、外国に住んだことで、皮肉にも日本食そのものへの関心も大きく高まることになったのです。
私が研究しているアメリカ合衆国は、もともと住んでいた先住民の人々と、世界各地から集まってきた移民たちによって作られた国です。その歩みは、アメリカの食文化にも色濃く反映されており、世界中の料理が混ざり合う豊かな多様性を持っています。一方で、産業革命以降のアメリカは、効率性を重視した食文化の工業化と画一化を急速に進めた国でもあります。後者の側面が、おそらく多くの日本人に「アメリカの食事といえばファストフード」という画一的なイメージを植えつけていると考えられます。私はこの、伝統的な多様性と、近代的な工業化という「アメリカの食文化の二面性」に強い魅力を感じ、研究を続けています。
近年のアメリカにおける多様な食文化のなかでも、特に印象的なのが日本食、とりわけ「寿司(SUSHI)」の人気です。現地の方と話していて私が日本人だとわかると、「スシが大好きなんだ!」と嬉しそうに話してくれました。街の日本食レストランに出かけると、店内は現地の方々で満席です。そして、寿司の人気はその後ラーメンの人気へと波及していきました。現在、アメリカの都市部では、人々がラーメン店に何時間も並んでいる光景が日常となっています。さらに最近では、日本の「オニギリ(ONIGIRI)」もヘルシーなファストフードとして注目を集めています。こうした「食のグローバル化」に伴うトレンドの変化も、研究対象として興味がつきません。
私の授業では、こうした身近な食のトレンドや歴史を糸口にしながら、世界のあり方を学んでいきます。一見、華やかに見える食のグローバル化の裏には、実は環境問題や労働問題、経済格差など、現代社会が抱える複雑な課題も隠されています。政治、ビジネス、農業等の枠組みを超え、持続可能な食料の供給をどう実現していくかは、これからの国際社会における喫緊の課題です。大学での学びは、これまでの「当たり前」を疑うことから始まります。みなさんと一緒に、「食料問題」や「食文化」というメガネをとおして、現代社会の課題に取り組むのを心より楽しみにしています。