学部別インデックス
外国語学部・英米学科
戸田 由紀子
職名 | 教授 |
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専攻分野 | アメリカ文学 カナダ文学 英語圏文学 マイノリティ文学 |
主要著書・論文 | The Bakhtinian Concept of Chronotope and Toni Morrison's Novels, 単著, 2009年、英宝社、170 p. 『二〇世紀アメリカ文学を学ぶ人のために』、共著、2006年、世界思想社、第7章「アフリカ系アメリカ文学」、pp. 98-111 『異相の時空間―アメリカ文学とユートピア―』 共著、2011年、英宝社、第3部「『共和国の母』の理念と『母性』の戦略―トニ・モリスンの『ビラヴィド』と『マーシィ』―」、pp. 156-172 『新たなるトニ・モリスン その小説世界を拓く』、共著、2017年、金星堂、第二章「バラとセクシュアリティ―『スーラ』とテネシー・ウィリアムズの『バラの刺青』」、pp. 25-38 「オバアチャンの『笑い』:ヒロミ・ゴトーの『コーラス・オブ・マッシュルーム』」 『カナダ文学研究』、日本カナダ文学会、第25号、2017年12月、 pp.111-128 |
将来的研究分野 | マイノリティ英語文学の比較研究 |
担当の授業科目 | アメリカ文学、文学の理論、南北アメリカの出会い、文学をめぐって、Special Topics in Englishなど |
多様な物語に耳を傾けるアメリカ文学
私の専門はアメリカ文学です。アメリカ文学といえば、どのような作家や作品を思い浮かべますか?マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』や、F.スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』といった有名な作品を思い浮かべるかもしれません。これらのよく知られた作品は、白人男性作家によって書かれたものが多いですが、実際のアメリカ文学はもっと多様で、女性作家の作品や、アジア、アフリカ、ラテンアメリカなどからアメリカに移住した人々が綴った物語も含まれます。
アメリカ文学の授業では、女性やマイノリティ作家たちの多様な作品に触れ、人種、ジェンダー、セクシュアリティ、宗教、階級の問題がどのように描かれているかを探求します。例えば、奴隷制時代から今日に至るまでのアメリカの大きな課題である人種問題が、文学作品の中でどのように描かれているか。ナイジェリアの作家チママンダ・ンゴズィ・アディーチェは、アメリカに来て初めて自分が「黒人」であることを意識するようになったと述べています。そして、アメリカでは「黒人」にネガティブな意味が付与されていることも指摘しています。ここで、アディーチェが言う「黒い肌の色」が持つ「特別な意味」を見事に描いた作品があります。ノーベル賞作家トニ・モリスンの小説『青い眼がほしい』です。この物語の主人公ピコラは、自分に向けられる大人たちの「視線」に「憎悪」が宿っていることに気づきます。そしてその原因が自分の「黒い肌」にあることに気づき、ピコラがその大人たちと同じように黒い肌や茶色の目を「醜い」と考えるようになり、自己肯定できなくなってしまうことが最大の悲劇として描かれています。
アディーチェも指摘するように、「黒人は醜い」や「アフリカは貧困、病気、紛争の絶えない場所」といった、特定の文化や人々についての一面的な視点しか提供しない「シングル・ストーリーの危険性」を打破するためには、複数の視点や物語を提供することが非常に重要です。アメリカ文学の多様な声に耳を傾けることは、アメリカに対する理解を深めると同時に、私たち日本人自身の固定観念を問い直す機会にもなります。例えば、日本国内においてアイヌ民族や在日韓国・朝鮮人などのマイノリティが抱える問題とも関連します。自分が多数派にいる場合は、無意識に他人を傷つけてしまっていることがあるかもしれません。また、海外に行くと、日本人が受ける「視線」は国や地域によって異なることに気づくでしょう。そして、その「視線」には偏見や誤解が含まれていることもあります。複数の物語を知ることで、他人の気持ちを理解する力や共感する力を高めることができます。そしてそれは、異なる文化や背景を持つ人々と共に生きていくためにとても大切な力です。
皆さんも、物語が織り成すアメリカ文学の世界に飛び込み、異文化理解を共に深めてみませんか?