南山の先生

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外国語学部・英米学科

原田 健二朗

職名 准教授
専攻分野 イギリス研究、政治思想史
主要著書・論文 「受動的服従の原理と実践:初期近代イングランドにおける国教会聖職者と忠誠宣誓」『思想』(単著、2019年)
「ポスト世俗主義的政治神学の思想史的基礎:イギリスにおけるラディカル・オーソドクシー学派」『思想』(単著、2018年)
「イギリスにおけるポピュリズムと宗教:EU離脱をめぐるキリスト教的言説」『福音と世界』(単著、2017年)
『ケンブリッジ・プラトン主義:神学と政治の連関』(単著、創文社、2014年)
「ロールズの政治的リベラリズムと宗教」『政治思想研究』(単著、2013年)
将来的研究分野 現代イギリスにおける政治と宗教の関係、イギリスの民族・人種問題
担当の授業科目 歴史研究の基礎(イギリス)、英米歴史特殊研究、英米政治特殊研究、Special Topics in English、政治学、思想史に学ぶ人間の尊厳

ポスト世俗化社会としてのイギリス研究

政治と宗教の観点からイギリスの歴史を理解することが私の研究課題です。

そもそも、「イギリス」という日本語は大変複雑な意味合いを持っています。イングランドを意味するポルトガル語の「イングレス(Inglês)」が「エゲレス」となまって、明治時代には「イギリス」として定着したとされます。しかし今では「イギリス」は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つの地域を含む国家の名称として使われます。この国家を、英語での正式名称に従って「ブリテン(Britain)」や「連合王国(United Kingdom)」と呼ぶこともありますが、「イギリス」という言葉もなお通用しています。

以上のように、非常に複雑に思われる「複合国家」としてのイギリスには、無限の研究テーマが広がっています。民族の興亡や移民動態、英語という言語の成り立ち、宗教意識や思想の変化、また国家の枠組みを歴史的に知ることは、皆さんの視野を相対化し、広げることに必ず役立つはずです。

他方で、イギリスの「外」に目をやると、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インドなどかつてイギリスの植民地であり、今でもイギリスと密接な関係を持つ国々が世界にはたくさんあります。「コモンウェルス(英連邦)」という枠組みは、今なお国際社会で無視しえない存在感を持っていますし、最近では「アングロスフィア(Anglosphere)」という概念も唱えられています。イギリスは歴史的にヨーロッパとの深い関係のもとに形成されてきましたが、そのヨーロッパの統合を目指す現代の組織、欧州連合(EU)からイギリスは2020年に離脱しました(「ブレグジットBrexit」と言われます)。このことが、イギリス国家のあり方に長期的にどのような影響を及ぼすかは重要な問題です。また皆さんは、かつて同盟条約を結んだ日英関係にも関心をお持ちかもしれません。近現代の日本にイギリスがどのような影響を与えたのか、またイギリスが日本とどのように関わってきたのかは大きな探求課題です。

私は、そのようなイギリスにおいて、人々の宗教意識が歴史的にどのように変容してきたのか、そして人々の多様な宗教性が政治秩序の中でどのように位置づけられてきたのかを研究しています。今日のイギリスでは、従来のキリスト教信徒の数が減り、社会が全般的に世俗化する一方で、移民の間を中心にイスラム教などの新しい宗教が活発化する、両義的な現象がみられます。いわば、「ポストキリスト教化(脱キリスト教化)」と「ポスト世俗化」が同時進行していると言えるでしょう。ポスト世俗化とは、社会が必然的に世俗化(脱宗教化)するという近代主義的前提が失われ、現代において宗教が新たな意味を持ち始める現象を意味します。

イギリスでも、伝統的なキリスト教的ナショナリティ(国民意識)が揺らぎつつも、人々がなお何らかの超越的事柄にアイデンティティを求める傾向は強固にみられます。このように、人種的・民族的にますます多様化する人々の諸信仰を、社会と国家がどのように調和的に共存させるかは喫緊の課題になっています。宗教的過激派によるテロリズム、人種的ヘイト事件、Black Lives Matter(BLM)運動、ブレグジット、さらには近年のイギリス王室問題は、いずれもイギリス人の根本的なアイデンティティの問い直しにつながる出来事ですし、スコットランドの独立運動や(北)アイルランド情勢が投げかけるイギリスの「連合(ユニオン)」の行方の問題も、人々の信仰・民族意識を変化させると考えられます。私は、イギリス社会における宗教と民族の(とりわけ調和的な)あり方を長期的に見通すべく研究を行っています。

イギリスを知ることは、世界と日本への理解を深めることにもつながるはずです。ぜひ南山で一緒に勉強しましょう!