南山の先生

学部別インデックス

外国語学部・英米学科

今井 隆夫

職名 教授
専攻分野 認知言語学と英語教育、言語コミュニケーション論
主要著書・論文 ・『イメージで捉える感覚英文法 ― 認知文法を参照した英語学習法』, 単著, 2010年10月, 開拓社, 245 p.
・『実例とイメージで学ぶ 感覚英文法・語法』, 単著, 2019年10月, 開拓社,
“The Effects of Explicit Instruction of “Image English Grammar for Communication” on Tertiary English Classes”(査読付き論文), 単著, 2016年3月, Journal of Annual Review of English Language Education in Japan(ARELE), 27, pp. 137-152.(16 p.)
The Effects of Teaching Linguistic Motivation through Image English Grammar, 単著, 2016年9月, 愛知教育大学大学院・静岡大学大学院・共同教科開発学研究科博士論文, A4判, 161 p.
“Teaching Construal Differences between Japanese and English Using the Concept of Domestication and Foreignization in Translation Studies” 単著, 2024年6月, ACADEMIA Literature and Language (116)NANZAN UNIVERSITY,pp. 1-26(26 p.)
将来的研究分野 ことばの不思議を探ること、日英語対比、それらを活用して、認知能力を活性化する英語学習法の開発
担当の授業科目 【学部】
Special Topics in English(Language A)、Special Topics in English (Culture E), 言語研究の基礎、英米言語学特殊研究B(認知言語学と英語教育)、英語科指導法C、ゼミ(演習Ⅰ~Ⅵ、卒業論文演習Ⅰ・Ⅱ)

【大学院(博士前期・後期)研究指導教員】
(博士前期)英語文法論A, ゼミ(研究指導Ⅰ~Ⅵ、言語科学課題演習A・B)

ことばの不思議を探る

私の研究分野は、認知言語学と英語教育、言語コミュニケーション論ですが、具体的にかみ砕けば、ことばの不思議を探ること、日英語の表現の違いを、人が事態をどう捉えているかから考えることです。さらに、その成果を参照して、英語の学習法や教育法を考えることです。以下にことばの不思議の例をいくつか紹介したいと思います。

 

【文法(言語)はカテゴリー化】

文法(言語)とはカテゴリー化(グループ分け)であり、カテゴリー化の仕方が日本語と英語では異なるため、一対一の訳語対応で理解できるのは、英語表現の意味のうち、日本語と重なっているところだけなのです。例えば、日本語で、「指は何本?」と聞かれれば、みなさんは、手と足の指を合わせて20本と答えるでしょう。では、How many fingers do you have?という質問にはどうでしょうか?答えは、Eightです。なぜなら、英語では、親指はthumbsで、人差し指、中指、薬指、小指がfingersだからです。また、足の指は、toesと言います。このように、指という簡単な単語でさえ、「指」=fingersというような対応では説明しきれないのです。また、母語話者の中には、We have ten fingers.と答える人もいますが、その方に、Are these fingers?と親指を指して聞けば、No, they are thumbs.と答えます。つまり、カバーターム(英語では、umbrella term)では、親指もfingerに含めることがありますが、個別には、thumbなのです。つまり、日本語と英語では、カテゴリー化の仕方が異なるため、一対一の訳語学習には限界があります。訳語を学習に使うときには、ずれがあるということを認識し、そのずれを学習が進む中で発見していくことが大切です。

 

【「これはリンゴです」を英語で言うと?】

多くのみなさんは、(a) This is an apple.と答えられたことでしょう。それで正解ですが、ほかにも正解があります。(b) These are apples.と(c)This is apple.です。なぜでしょうか?日本語では、「(これは)リンゴです」という表現が指し示す状況は、少なくとも3つ考えられます。1つ目は、リンゴが1つある場合。2つ目は、複数個のリンゴがある場合。この場合、英語の授業では、「これらはリンゴです」と習ったかもしれませんが、日常の自然な日本語では、リンゴの数に関わらず、「これ」を使いませんか?そして3つめは、スライスしたり、すりおろしてあるリンゴです。英語では、これら3つの状況を、それぞれ上の(a), (b), (c)のように別の表現で表すのです。英語は、ものが丸ごと1つあるのか、切ったりすりおろしてあり、原型を留めているかいないか、物の数を気にする言語で、それらを言語化しますが、日本語は、それらを気にしないのです。中学校のテストでは、(a)だけが正解だったかもしれませんが、実際の言語使用では、文脈によっては、(b)や(c)も正解なのです。

 

【英語は誰のものかを言語化する】

ある駅の看板に、「ゴミはお持ち帰りください」というのがあり、下に英訳が添えてありました。知り合いのイギリス人が、おもしろい表現だと写真を撮って送ってくれたのですが、その英訳は、「Take the garbage home with you.」となっていました。この英訳のどこが不自然かわかりますか?これだと駅のごみをすべて持ちかえるという意味に解釈される可能性があります。日本語で、言いたいことは、自分が出したごみなので、英訳するなら、Take your garbage home with you.となります。もう1つ、「手を洗いなさい」を英語でどう表現しますか?Wash your hands.ですね。英語は、誰の手なのか(your)と手が2本(hands)ということを言語化すのです。

 

【日常言語は、比喩表現の宝庫】

日本語で、「昨日、花見に行ってきた」といいますが、これを英語に直訳して、I went to see flowers yesterday.と言ったら、英語のネイティブスピーカーはどう答えると思いますが?おそらく、What kind of flowers did you see?と聞くでしょう。なぜでしょうか?日本語では、「花見」という表現の花は、桜を表し(昔は、梅を表していた)、桜の花を見にいったと理解されます。しかし、英語にはこのような慣習は、flowerという語にはないので、I went to see cherry blossoms yesterday.のようにより具体的に、桜の花と言わなければならないのです。これは比喩の一種で(専門的には、シネクドキ―と呼びます)より抽象的な語(ここでは花)を用いて、より具体的な意味(ここでは桜)を表すような言語現象のことを言いますが、このような例は、日本語にも英語にも多く見られますが、その対象が日英語では、共通していないのです。例えば、アメリカ英語では、Kleenexというティッシュペーパーの商標でtissue(ティッシュペーパー)一般をさす言い方があります。日本語の他の例では、「ごはん行こうか」という文脈では、「ごはん」は、より抽象的な語「食事」のことを指しますね。このように、日常言語は、比喩表現の宝庫ですので、ほかの表現も探してみてください。

 

ことばの不思議探りは、いかがでしたか?

以上のように、英語と日本語を比較すると、不思議で興味深いことがたくさん見つかります。このようなことばの不思議を探り、日本語と英語の表現の違いから、人が事態をどう見ているかが言語に反映されているかを探り、ものごとはさまざまな見方ができることを理解すれば、自己を客体化できます。外国語を学ぶ意味の1つには、事物の捉え方は、自分の見方以外にもあることに気付けることです。さらに、この学びは、困難に出会ったときにも、さまざまな捉え方ができ、人生がより楽になり、将来どの道に進むとしても役立つtransferable skillsとなります。外国人とだけでなく、日本人同士も含めた、広い意味での異文化コミュニケーション力も向上すると思います。しかし、このような自分の母語と外国語の捉え方と表現の違いを異文化コミュニケーション力にまで高めるには、外国語を高いレベルまで身に着けることも同時に必要となります。

 

ことばの不思議を探ることで、英語力のみならず、異文化コミュニケーション力や困難に対応できる力も高めてみませんか?