南山の先生

学部別インデックス

外国語学部・英米学科

手塚 沙織

職名 准教授
専攻分野 国際人口移動、移民政策、アメリカ政治と経済
主要著書・論文 「米中間の高度人材をめぐる攻防と技術覇権の行方」(『CISTECジャーナル』、2020年7月、安全保障貿易情報センター、pp.166-174)
「パンデミック下の入国制限と解除をめぐる世界」(『世界諸地域における社会的課題と制度改革』沢登文治、手塚沙織、山岸敬和編著、2023年、三修社、pp.67-83)
「複数国籍者からの国籍剥奪-国家安全保障を軸とした議論の行方」(『複数国籍-日本の社会・制度的課題と世界の動向 』佐々木てる編著、2022年、明石書店、pp.149-173)
将来的研究分野 高度人材の国際移動と国家安全保障
担当の授業科目 国際関係特殊研究、英米政治特殊研究、Special Topics in English, 政治と経済の諸相

「国境」をめぐる世界とは

みなさんは外国に行ったことがありますか。これを読んでいる皆さんの中には、外国に行ったことがある人、将来外国に行きたいと思っている人が少なからずいると思います。日本という国から他の国に行くのは、愛知県から他府県に行く移動(国内移動)とは異なり、国と国の間にある「国境」を越える移動(越境)になります。「国境」は、宇宙から撮られた衛星写真では見えませんが、地図には国名と「国境」が描かれています。「国境」は、その文字通り、国と国の間の境を表すものです。ということは、他の国へ行くときには、「国境」を越えなければなりません。日本のように海に囲まれ、外国に行く時には飛行機(空路)を利用する場合は、「国境」を越えていると意識することが少ないかもしれません。しかし、日本とは異なり、世界の多くの国は陸続きであることから、「国境」を越えるときには、電車や車といった陸路の場合が多く、国境付近には、検問所などがあります。飛行機で日本から他の国に到着した時に、入国管理官にパスポートを提示し、入国理由などを伝えなければならないように、陸路で「国境」を越える時でも入管にパスポートを提示し、他の国に入る理由を伝える必要があります。

この「国境」を越える前後で、私たちは「外国人」「移民」「永住者」「市民」「非正規移民(不法移民)」「難民」といった社会でのステータスが変わり、私たちへの社会での見られ方も変わります。例えば、アメリカに観光目的で日本のパスポートを持った人が、日本からアメリカの「国境」を越えると、その人はアメリカにおいて観光目的のためにビザを免除された「外国人」として見なされます。また、イタリアに観光目的で日本のパスポートを持った人が、日本からイタリアの「国境」を越えると、その人はイタリアでは観光目的のためビザを免除された「外国人」となります。イタリアのミラノで観光中に、隣国フランスのパリへ鉄道で行こう と考え、イタリアとフランスの「国境」を越えるときには、必ずしもパスポート を提示する必要はありません。これはなぜでしょうか。これは、イタリアやフランスを始めとするヨーロッパ諸国間において、シェンゲン協定という法制度が取り決められているからです。いったんシェンゲン協定を結んでいる国へ入ると、その協定内では、パスポートを再三見せることなしに、自由に行き来することが出来ます。しかし、イタリアの時と同様に、フランスでもやはり「外国人」で あり、フランスでの滞在期間も決められており、勝手に滞在期間を超えて住むこ とはできません。そのまま住み続けると、「非正規移民(不法移民)」となってしまいます。

このように「国境」を越えること(越境移動)や、「国境」を越えることによる社会でのステータスの変化など、私たちが外国に行くということは「国境」を意識せざるを得ないことが多数あります。シリアなどから欧州へ難民が流入した「欧州難民危機」や、トランプ米大統領がメキシコとアメリカの「国境」沿いに壁の建設を主張し続けることなど、現在、世界では「国境」をめぐる問題が多数見られます。私が研究しているのは、移民政策と呼ばれる「国境」を越える人々を管理する政策であり、こういった「国境」をめぐる人々を取り巻く政治と経済です。みなさんも国外へ行く時に「国境」を意識して、その国の政治や経済を考えてみてください。

国境の引かれていない地球儀
国境をいとも簡単に越えている飛行機に見えるが…