南山の先生

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外国語学部・英米学科

川島 正樹

職名 教授
専攻分野 アメリカ現代史、アメリカ史における『人種』
主要著書・論文 『アメリカ市民権運動の歴史』(名古屋大学出版会)、『アメリカニズムと「人種」』(名古屋大学出版会)(編著)
将来的研究分野 市民権(公民権)運動の歴史的意義、正義と民主主義の葛藤、連邦権力と地方自治、市民権と人権のはざ間
担当の授業科目 「アメリカの歴史」「アメリカ史特殊研究」「歴史研究の基礎」「モダンの系譜:人権をめぐって」「近現代史」

「私には夢がある...」

"I Have A Dream ..." 1963年8月28日にアメリカ合衆国の首都ワシントンで30万人近い聴衆をまえに感動的な演説を行ったのはだれでしょうか?英語教科書にも収録されているほど有名ですから、ご存知の人も少なくないでしょう。そう、マーティン・ルーサー・キング,Jr.牧師です。彼は翌年ノーベル平和賞を受賞します。

じつは、わたしもいまをさることン十年前(?)、受験勉強になやむ高校3年生のときにこの演説文を英語の授業で習いました。もちろん教科書にはまだ載せられていませんでしたが、熱心な先生が演説の録音テープと原稿を使って授業をしてくれました。感動の余韻がおさまったあと、わたしにはいくつかの疑問がうかびました。どうして「奴隷解放宣言100周年」の記念集会でキング牧師が人種差別の撤廃を「夢」として訴えねばならなかったのか。「世界でもっとも民主的な国」と言われる国で、投票権をはじめとする基本的権利の剥奪が正当化されえたのはなぜか...これがわたしの「いま」の出発点です。

さらに数年経った1970年代末のある夜のことでした。南アフリカのアパルトヘイト体制への抵抗運動を支援するボランティア活動をしていた先輩にさそわれ、当時まだ南アの事実上の植民地として厳しい人種隔離体制を強いられていた南西アフリカ(現在のナミビア)で反体制運動に従事していた、ボツワナ大学の黒人助教授による講演を聴く機会を得ました。理路整然とした人種隔離体制の糾弾にもちろん共感しましたが、わたしにとって衝撃的だったのは、当局による執拗な迫害をのがれてカラハリ砂漠を横断するほどの頑強な肉体と意思、そして明晰な頭脳の持ち主である、このような極めて優秀な人材を「人種」のゆえに排除することの言いようのない不合理でした。このような人たちを抑圧するには膨大な警察や軍隊の力を必要とするだろう。よりよき社会を築くためにむしろこのような優秀な人たちと協力する道を選ぶほうが社会全体の利益ではないか。いずれにしろ差別隔離体制は永続するわけがない、とわたしは心の底で直感しました。それは的中します。

わたしはその後アメリカの人種差別撤廃闘争を専攻しますが、なるべく現地を訪れたり、当事者にインタビューも試みています。下の左と中央の写真はアラバマ州バーミングハムで撮影したものです。1960年代に差別撤廃の闘いの中で勇敢にも立ち上がった小中高の生徒がいまや銅像になり、そのときの様子を長く語り継ぐための研究施設も確立されています。このような歴史の展開を確信した人々によって、「いま」がきりひらかれたのです。イリノイ州上院議員時代のバラク・オバマ氏ともお話ししたこともあります。