南山の先生

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外国語学部・英米学科

鈴木 達也

職名 教授
専攻分野 英語学、言語学
主要著書・論文 The Structure of English Gerunds(ワシントン大学博士論文)University Microfilms Internationalより出版(単著)
リチャード・スピアーズ(著)鈴木達也(訳)『米語会話きまり文句辞典』(マクミラン ランゲージハウス)
将来的研究分野 生成文法理論による英語動名詞の統語研究、生成文法理論の英語教育への応用
担当の授業科目 「英文法論」「英米言語学特殊研究」他

はっきりとした曖昧(あいまい)な言葉

私の専門は言語学。言語学は、言語を科学的に研究する学問です。私は南山大学で生成文法理論という言語理論を使って、主に英語の文法を研究しています。

みなさんは高校でも英文法を勉強すると思いますが、「英文法」というとどのようなイメージをもっているでしょうか?ここでは、英語を例に使って、私の専門の生成文法理論に基づく言語学ではどのようなことを研究するのかということについて簡単に説明することにしましょう。

大学の言語学の授業でまず勉強することの一つに「曖昧性」というものがあります。この言葉、「曖昧」という言葉が普段よく使われている意味と多少違っているので、誤解されることも少なくありません。普段みなさんが「曖昧」という言葉を使う時、おそらくそれは「はっきりしない」あるいは「ぼんやりとした」という言葉で置き換えても良いような意味で使っているのではないでしょうか?例えば(1)のような文を考えてみてください。

(1) 曖昧な言い方をするのはやめてください。イエスかノーか、はっきりしてください!

(1)の文は、(2)のように「曖昧な」という言葉を「はっきりしない」という言葉で置き換えても、ほとんど意味の違いは生じないと思います。

(2) はっきりしない言い方をするのはやめてください。イエスかノーか、はっきりしてください!

しかし、言語学で使う「曖昧」という用語の場合は、「はっきりしない」という意味は全くなく、「一つの表現に(はっきりとした)意味が複数存在する」という意味で使います。一つ例を挙げましょう。次の表現は実はよく考えると意味が少なくとも二つあるのですが、分かりますか?

(3) The pirate hit the old man with a stick.

一つの意味は、「その海賊は、棒でその老人をたたいた。」という意味で、もう一つの意味は、「その海賊は、棒を持っているその老人をたたいた。」という意味です。どうですか?意味がはっきりしていないのではなく、「はっきりとした」意味が二つあるでしょう?

同じようなことは、次のような文でも起きます。次の文の意味をよく考えてみてください。

(4) When did you say Taro took the TOEIC test?
(あなたはいつ太郎がTOEICテストを受けたと言ったのですか?)

日本語訳の方でも同じことが言えるのですが、(4)の文の意味は二つあります。一つは、「太郎がTOEICテストを受けた」ことをあなたがいつ言ったかを尋ねる意味で、もう一つは、「いつ太郎がTOEICテストを受けた」とあなたが言ったかを尋ねている意味です。答えとしては、例えば、前者に対しては(5)のような文が考えられ、後者に対しては(6)のような文が考えられるでしょう。

(5) I said last week that he took the test.

(6) I said he took the test last year.

言語学で使う「曖昧」という用語は、このようにはっきりとした意味を持つ場合を指しています。そのはっきりとした意味が複数存在しているのですね。