南山の先生

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外国語学部・アジア学科

江口 伸吾

職名 教授
専攻分野 現代中国政治、政治社会学
主要著書・論文 『現代中国の社会ガバナンス-政治統合の社会的基盤をめぐって』(単著、国際書院、2021年)、『よくわかる現代中国政治』(共著、ミネルヴァ書房、2020年)、『変動期の国際秩序とグローバル・アクター中国-外交・内政・歴史』(共編著、国際書院、2018年)、『中国式発展の独自性と普遍性-「中国模式」の提起をめぐって』(共編著、国際書院、2016年)、『岩波世界人名大辞典』(共著、岩波書店、2013年)、『中国がつくる国際秩序』(共著、ミネルヴァ書房、2013年)、『日中関係史1972-2012 I政治』(共著、東京大学出版会、2012年)ほか
将来的研究分野 ガバナンス研究、比較政治社会論、日中関係論、北東アジア研究
担当の授業科目 「中国社会研究」「中国圏の文化と社会」「中国の現代事情」「アジア学入門」「アジア文献講読」「アジア地域演習」ほか

グローバル・アクター中国の両義性

現在、中国は、グローバル・アクターとして、国際社会への影響力を高めています。それは、中国が、国連の安全保障理事国であるといった政治大国としてばかりでなく、2010年にはGDP世界第2位に躍り出て経済大国としての地位も確立し、近年では米中両国の覇権争いの激化などにみられるように、日本を含むアジア地域秩序、ひいては国際秩序のゆくえにまで決定的な影響を与える存在になったことにあらわれています。このように大きく変貌をとげた中国とどのように向き合えばよいのかという問いは、隣国に位置するわたくしたちにとって避けては通れない課題となっています。

グローバル・アクターとしての中国の歩みは、改革開放期の近代化政策、とりわけ1992年の社会主義市場経済体制への移行にその起源の一つが見出されます。すなわち、政治体制の根幹をなす社会主義を堅持する一方、それとは本質的に矛盾する市場経済化を積極的に推し進める体制を確立し、また2001年のWTOへの加入に象徴されるグローバル経済との統合を図ることにより、現在に至る加速度的な経済、社会発展を可能とさせました。さらに近年では、2014年に提唱された「一帯一路」において、ユーラシア大陸全域を見据えた広域経済圏構想も打ち出され、中国がつくろうとする国際秩序の一端が垣間見られるようになりました。また、その過程において、中国・ミャンマー関係にみられるように、中国とその周辺国との間のヒト、モノ、カネの往来も活発化した一方(写真)、自由主義諸国とは規範を異にする中国モデルの影響力の拡大に対する懸念も深まりました。

他方、この歩みと表裏一体をなすように、国内社会において多くの社会問題が顕在化し、中国はその内に脆弱性も抱え込みました。とくに市場経済化は、国内社会の流動化、多元化を促した一方、それに必然的に伴う富の偏在化が格差問題としてあらわれ、東部沿海地域と内陸部、都市と農村といったさまざまな領域で深刻化しました。また、富の偏在化は、利益集団化した人間関係ネットワーク、権力関係などと結びつくことにより、腐敗問題へと転化し、政治社会の亀裂ももたらしました。さらには、この問題を克服する試みとして、2013年から反腐敗運動が実施されましたが、党の政治キャンペーンとして一定の成果を収めた一方、この問題の根源にある法の支配の不完全性は積み残されたままです。これらの国内の政治社会のさまざまな歪みは、政治社会の安定性を維持することの難しさ、ひいてはグローバル・アクター中国の脆弱性の根深さを暗示しています。

このような両義的な特徴をもつグローバル・アクター中国の実態は、わたくしたちの想像を越えて大きく展開し、且つその影響力は衰えをみせません。わたくしたちは、中国の現実に立脚し、多角的、複眼的にその実態を捉えることにより、中国との向き合い方を見出し続けなくてはなりません。みなさんと一緒に考えてまいりたいと思います。



中国・ミャンマー国際鉄道幹線を担う建設中の怒江四線特大橋(於中国雲南省保山市の恵通橋付近、本人撮影)


中国雲南省のミャンマーとの国境検問所・瑞麗口岸(本人撮影)