南山の先生

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外国語学部・アジア学科

張 玉玲

職名 教授
専攻分野 文化人類学・華僑華人研究
主要著書・論文  『華僑文化の創出とアイデンティティ-華僑学校、獅子舞、関帝廟、歴史博物館』(ユニテ、2008)、『南京町と神戸華僑』(共著、松籟社、2015)、『東アジア世界の民俗―変容する社会・生活・文化―』(『アジア遊学215』)、勉誠出版、2017年)ほか。
将来的研究分野 中国系移民以外の移民集団についての研究
担当の授業科目 中国語関連科目、華人文化研究、華人社会研究、アジア学入門、基礎演習など

他者理解を通して「複眼的視点」を養おう

朝焼け小焼けだ 大漁だ

大羽鰯(おおばいわし)の大漁だ。

浜は祭りのようだけど

海のなかでは 何万の

鰯のとむらい するだろう。

 これは山口県出身の詩人金子みすゞの詩「大漁」です。人間の大漁と鰯のとむらい、浜での喜びと海での悲しみ、詩人は豊かな想像力と大胆な対比を用いて、この世界のすべてが表裏一体であること、立場が変われば感情も見方も変わることを教えてくれています。日本海に面した山口県長門市仙崎という漁港に生まれ育ち、自分の生活に密接にかかわる(人間の「生」を支えてくれている)海や魚などに特別な感情を抱く金子みすゞの鋭くて繊細な感性に、強く感銘を受け、彼女の作品の愛読者になるのは、決して私だけではないでしょう。

 100年前の日本を生きた金子みすゞの作品ではありますが、彼女の相対的視点、物事を複眼的に捉える視点は、多様な文化背景や価値観、思想信条を持つ人々からなるこの世界を生きる私たちにとって、今でもこれからでも必要不可欠だということです。例えば、ある国では悪人や犯人とされている一方で、他国では民族の英雄として敬われている人、また同じ戦争でも、一部の人々には豊かさをもたらす手段であるのに対して、その他多くの人々にとっては死や家族の離散を意味する、災難以外の何物でもないのです。中国宋代の詩人蘇軾の『題西林壁』に「横見成嶺側成峰、遠近高低各不同。不識廬山真面目、只縁身在此山中」とあります。ここでは日本語訳は省きますが、物事は違う角度から捉えられる際、必ず異なる様相を呈していること、一つだけの角度からでは物事の本当の姿を捉えることができない、ということをこの古詩からも読み取れるのです。

 外国語や外国の文化を通して、その国や地域に住む人々の価値観を理解することができるとよく言われますが、それは、「違い」について学び、研究していくうちに、これまで「当たり前」としてきた自分の価値観、自文化をある程度相対化させて、相手の立場からも物事を考える姿勢や態度が身につくからだと思われます。海外での勉学、生活を人生設計に入れていなくても、違う文化背景や価値観の人と同僚や隣人として「共生」、「共存」するこの時代、一層多くの「漁師の喜び」も「鰯の悲しみ」もわかる人間が求められています。若い皆さんと一緒に新しい知識や異文化について勉学し、多様性が尊重されるより暮らしやすい社会の在り方について研鑽していけたら幸いです。