南山の先生

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経済学部・経済学科

湯淺 豊生

職名 教授
専攻分野 租税論、行政法
主要著書・論文 Memuju Sistem dan Administrasi Perpajakan Berkelas Dunia(共編著)カリスマ出版、(2004)
担当の授業科目 租税論

みんなで読もう「税務署長の冒険」

皆さんは、宮沢賢治の『税務署長の冒険』という小説を知っていますか。「風の又三郎」や「銀河鉄道の夜」のイメージが強い賢治です。実は税務署長が村を挙げての密造酒を摘発する、まるで探偵ドラマのようなユーモラスな短編小説を書いています(注)。このお話が書かれた大正時代、日本の財政にとって「酒税」は、国の税収全体の実に25%前後をも占める極めて重要な財源でした。酒税の重税感や折からの物価高騰の影響もあり、当時は自分でこっそりお酒を造る「密造」が横行し、それを取り締まる税務署との間で、毎日のように激しい攻防が繰り起こされていました。

 

小説の中で、税務署長は密造をする村人たちに向かってこう呼びかけます。「こそこそと質の悪い密造酒を造って罰金を取られるより、ビーカーやピペットなど立派な化学器械を使って、清潔で上等な酒を大っぴらに造らないか。税金さえ払ってくれれば、国が技師の世話までしてあげる!」と。実はこれ、単なるお話のセリフではなく、当時の税務当局の「本音」を表しています。国税の仕事は、単に権力で密造を取り締まることだけではありませんでした。お酒の品質を上げ、産業としての酒造業を近代化するために、全国の酒蔵の次世代を担う人々、蔵人や技術者を対象とした講習制度などを通じた高度な醸造技術の指導や、醸造研究所において分離された優れた酵母の配布など、技術的な支援を全力で行っていたのです。

 

私は、南山大学の経済学部で、税金の役割や社会への影響を考える「租税論」を教えており、税金に関する法律についても教えています。法律や税金の議論と聞くと「条文の暗記ばかりでお堅い学問」と思うかもしれませんが、実は税を学ぶことは、社会の歴史や、私たちの生活、さらには技術の進歩とも深く結びついています。かつて税務監督局の鑑定課の技師、のちに国税局の鑑定官と呼ばれるようになった人々や、全国の酒造家たちが血の滲むような努力で磨き上げた日本の醸造技術は、今や世界中で大人気となっている「日本酒(Sake)ブーム」の確かな礎(いしずえ)となっています。税という制度が、日本の伝統文化を守り、世界へ羽ばたかせる強力なサポーターとしての役割も果たしてきたのです。

 

税金は、ただ国にお金を取られるだけのものではなく、社会や産業を育て、私たちの未来をデザインするための重要なツールです。これまであまり馴染みのなかった「税」の歴史や、それが創り出す未来の社会について、賢治の小説を入り口に、大学で一緒に勉強してみませんか。皆さんとキャンパスでお会いできるのを楽しみにしています。

 

ただし、お酒は20歳から。

 

 

(注)本作品には、執筆当時の時代背景や社会的規範により、現代の価値観からすると不適切とされる表現(差別的な用語や描写など)が含まれています。