南山の先生

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経済学部・経済学科

前林 紀孝

職名 准教授
専攻分野 マクロ経済学、公共経済学、財政学
主要著書・論文 ・Dynamic Analysis of Reductions in Public Debt in an Endogenous Growth Model with Public Capital (査読付き論文), 共著, 2017年9月, Macroeconomic Dynamics, 第21巻6号, Cambridge University Press
・Is an Unfunded Social Security System Good or Bad for Growth? A Theoretical Analysis of Social Security Systems Financed by VAT(査読付き論文), 単著, 2020年8月, Journal of Public Economic Theory , 第 22巻4号, Wiley
将来的研究分野 高齢化社会と持続可能な公的年金制度の設計
グローバル化と法人税競争の動学的経済厚生分析
担当の授業科目 マクロ経済学、公共経済学A・B、経済成長論A

財政規律の下での財政再建のマクロ経済分析

 近年、日本を含む多くの先進国において膨れ上がる政府の債務残高と国債発行に依存する財政運営のあり方が問題視されている。なぜなら、急速に進む少子高齢化によって、社会保障関係費の増大が勤労世代の負担をより重くし、経済活動および税収の低迷によって財政の悪化がさらに加速すると予想されているからである。

 累積する国債残高は、第一に、国債費(債務償還費と利払い費)の増大を招き、柔軟な財政運営を困難化する(財政の硬直化)だけでなく、第二に、国債費の負担を将来世代に転嫁するという現存世代から将来世代への負の所得再分配を引き起こし、世代間の不公正を増大させる。また、財政赤字の増加は民間への資金供給を減少(民間資本のクラウディング・アウト効果)させ、利子率の上昇(資本の希少性が高まりその対価である利子率が上がる)を引き起こす。それによって、さらに国債費が増大し続ければ財政の持続可能性が危ぶまれる事態となる。

 私の研究では国債残高を目標値まで徐々に減らすルールのもとで財政再建を行う場合、移行動学と経済厚生にどのような影響を与えるかという問題について公共支出を含む閉鎖経済の成長理論モデルで分析している。これまでの研究で得られた財政再建の経済効果に対するインプリケーションは以下の通りである。重要なことは、第一に、国債残高が多い国ほど財政再建によって大きく経済厚生が改善することが示されたことである。公債を減らすことは短期的には、公共支出の削減や増税による経済成長の大きな落ち込みを伴うが、国債の利払いが減るにつれ公共支出の増大と減税が可能となり、長期的には財政再建を行う前よりも高い水準の成長率を達成できる。このような短期の負の効果と長期の正の効果では経済厚生に与える影響として正の効果が勝り、財政再建を行うことは経済厚生を改善させる。そして第二に重要な結果は、国債残高を減らす速度はできるだけ早いほうが経済厚生をより改善させることが分かったことである。