南山の先生

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経済学部・経済学科

稲垣 一之

職名 准教授
専攻分野 国際金融論
主要著書・論文 Kazuyuki Inagaki, “Estimating the Interest Rate Semi-Elasticity of the Demand for Money in Low Interest Rate Environments”, Economic Modelling, Volume 26, Issue 1, pp. 147-154, January 2009, Elsevier. 単著
将来的研究分野 人口構造の変化が国際資本移動に与える影響
担当の授業科目 国際金融論、国際経済入門

世界の負債総額は2京円=地球5周分

負債とは、平たく言えば借金のことであり、私たち消費者のような民間部門はもちろん、政府も負債を抱えることがあります。もちろん、負債を抱えることは悪いことではありません。例えば、住宅ローンを組んで新築一戸建てを購入すれば、家族の生活をより充実させることができるでしょう。住宅ローンの返済義務は伴いますが、一般的な社会人の場合、新築一戸建てを一括購入するために必要な資金を貯めるには何十年もかかるでしょうし、それまでマイホームの夢を我慢できないと感じる人も多いと思います。お金を借りることには、現在の私たちの生活を豊かにするという利点があります。

上述した通り、このような負債は各国に存在しています。その金額を世界全体で合計すると、どれくらいの規模に達しているのでしょうか?経済学者であるLane氏とMilesi-Ferretti氏によって2017年に発表された研究成果によれば、世界全体の負債(民間と政府の両部門)を合計すると、約175兆ドルに達することが分かりました。この原稿を執筆している2019年4月時点の為替レートで日本円に換算すると、約2京円です。世の中には様々な経済データが存在しますが、兆の単位を超える経済データに出会ったのは、私の場合これが初めてです。

「100万円の厚さ=1万円札100枚=1センチメートル」とした場合、1京円の厚さは10万キロメートルに達します。地球1周は約4万キロメートルであるため、2京円は地球5周分に相当します。このような途方もない負債額は2000年頃から世界全体で急激に増え始め、現在も過去に例のないスピードで増え続けていることが分かっています。私たちは、この事実をどのように受け止めればよいのでしょうか?ある人は、お金を借りて経済を動かすことは景気が良いことの裏返しであると、好意的に受け止めるかもしれません。別の人は、景気が良いうちに少しでも負債を減らしたほうが良いと考えるかもしれません。

負債が拡大し続ける状態で最も懸念されることは、借金の支払いが不可能になる状態(債務不履行)であると考えられます。直感的には、私たちからお金を集めている(=借りている)銀行が倒産して、私たちの預金が消滅してしまう状態です。国家レベルで債務不履行に陥った国は歴史的に多数存在しており、当該国はもちろん、その周辺国も巻き込んだ経済危機に発展する場合もあります。近年は先進国も例外ではないことが2010年のギリシャ危機から明らかになりました。債務不履行によってギリシャの景気が悪化した結果、若年層の失業率が60%を超えたともいわれています(若者10人中6人が失業者)。

国際金融論で扱う題材には、上述した債務不履行の原因解明、債務不履行に陥りそうな国を特定するための経済指標の開発、債務不履行を回避するために必要な政策手段の提案、などが含まれます。私の研究分野は、外国に対する資産・負債残高の変化です(国内の資金が不足していれば、外国から資金を借り入れることもできます)。これは、専門用語で国際資本移動と呼ばれます。例えば、(1)豊かな国から貧しい国へどれくらいの資金が移動したのか、(2)その資金は貧しい国の経済成長をどれくらい促したのか、(3)外国に対する負債は返済可能な額にとどまっているか、などです。

円相場や金融政策など、国際経済を金融面から考えるうえで重要となるトピックスは他にもあります。国際金融論の講義では、上述した2京円の負債額の推移をグラフ化して世界全体の資金の流れを検証するなど、最新のデータを紹介しながら学生の皆さんと共に世界経済について考える時間を大切にしています。

<参考文献>
Philip R. Lane and Gian Maria Milesi-Ferretti (2017), "International Financial Integration in the Aftermath of the Global Financial Crisis," IMF Working Paper 17/115