南山の先生

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経済学部・経済学科

林 尚志

職名 教授
専攻分野 開発経済学
主要著書・論文 「アジア子会社への企業内技術移転:製品開発度高度化のメカニズム」、「日系メーカーアジア子会社における人材育成:「○型&□型」の融合に向けた取り組みをめぐって」
将来的研究分野 日系メーカーがアジアの経済発展に果たす役割について
担当の授業科目 「開発経済学」

「貧困の悪循環」からの脱出をめざして

開発経済学は、戦後まもなく植民地から独立したアジア、アフリカなどの国々が「どのようにして経済開発を進め、豊かな社会を実現するのか」を考える学問としてスタートしました。講義では、その後の開発戦略の流れを追いながら、東アジアの国々を中心に、各国の経験から学ぶべき点を探っていきたいと考えています。

開発経済学がスタートした当初、途上国にとってまず超えるべきハードルと考えられたのが、"貧困の悪循環"です。豊かな先進国であれば、将来に向けて貯蓄を行うだけのゆとりがあるので、その資金を活用すればさらに豊かになることができるでしょう。ところが貧しい国では、「その日に食べることで精一杯」であるがゆえに将来に向けて貯蓄を行うゆとりがなく、「今日貧しいがゆえに、明日もやはり貧しい」という悪循環に陥るというのです。この悪循環にさらに追い打ちをかけるのが"人口の増大"です。日本をはじめ先進国では子どもの数が少なく少子高齢化が問題となっていますが、貧しい国ほど働き手としての子供の役割が大きいこともあって子どもの数が多い傾向にあります。皮肉なことに、個々の家族にとってはこの方がありがたいのですが、社会全体としては必ずしもそうとは限りません。人口が爆発的に増大する中、農村では限られた土地に貧しい農民が増える一方、仕事を求めて都市に出た人々も定職に着けず、スラムを形成して貧困問題が悪化するという結果につながりかねないからです。

開発経済学では、このような悪循環からの脱出を目指し、試行錯誤を経ながら新たな工業化戦略が模索されてきました。とりわけ、1970年代まで主流であった"内向き戦略"(輸入品をシャットアウトして国内で大規模な工業化プロジェクトを進める政策)が挫折する中で、1980年代になると、今度は"外向き戦略"(繊維や雑貨など、小規模なものから順番に得意分野を育てた上で、海外への輸出拡大を図る政策)が大きな脚光を浴びるようになりました。この戦略を導入した韓国、タイ、中国などが"東アジアの奇跡"とも呼ばれる成果を遂げ、その他の国々も競うようにこの戦略を導入するようになったからです。

多くの子どもたちが路上で懸命に働いている(バングラデシュ)
©UNICEF/FK-15/Noorani UNICEF Dhaka
(提供:日本ユニセフ協会)

そして現在では、この"東アジアの奇跡"の「その後」をめぐって、さらに数々の疑問が提起されています。たとえば、「経済のグローバル化(資金・情報・人材etc.が高い収益率を求めて移動し、世界経済が一体化する傾向)が進み東アジア各国の競合関係が高まる中、各国はどのように"独自の魅力"を育てることができるのか?」、「通貨・金融危機や環境問題など"地域共通の課題"に対し、各国はどのように協力して取り組むべきなのか?」等々です。講義では、これらの疑問も念頭に、開発への取り組みと今後の課題について考えていくつもりです。