南山の先生

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経済学部・経済学科

大鐘 雄太

職名 准教授
専攻分野 金融論・計量経済学
主要著書・論文 Naiki, Eriko, and Yuta Ogane, “Are Japanese Full-time Workers
Conservative in Starting New Businesses?” Journal of the Japanese and
International Economies, 60, 101133, June 2021
Ogane, Yuta, “Who is a Good Advisor for Entrepreneurs?” Applied
Economics, 53, pp. 1-34, January 2021
Ogane, Yuta, “Banking Relationship Numbers and New Business Bankruptcies,
” Small Business Economics, 46, pp. 169–185, February 2016
将来的研究分野 金融の実証研究
担当の授業科目 経済統計入門、計量経済学A、計量経済学B

正しいデータ分析の重要性

南山大学経済学部で開講されている「データ処理入門」、「経済統計入門」、「計量経済学A」、「計量経済学B」、という4つの講義では、データを正確に解釈・分析できる能力の涵養を目的としています。これらは概括すると、「データ処理入門」が初歩、「経済統計入門」が基礎、「計量経済学A」と「計量経済学B」が応用という位置づけになっており、それぞれの講義が完結した内容になっていると同時に、4つの講義が体系的な1つのパッケージとなるような構成になっています。

ここでは、多くの人にとってはあまりなじみのないと思われる計量経済学について、「職業訓練がその参加者の賃金に与える影響」を例にとって、簡単にご説明いたします。

上記の例について考えるときに、まず思いつくのが、「職業訓練に参加したグループの賃金の平均値を職業訓練の前後で比較する」という方法ではないでしょうか。しかし、この方法では、たとえ職業訓練の前後で賃金の上昇が観察されたとしても、それが景気の影響によるものである可能性を否定できません。それでは、「参加しなかったグループも用いて、両グループ間の賃金の平均値を職業訓練の前後で比較する」という方法はどうでしょうか。この方法は一見問題がないように思えますが、やはりこの方法においても無視できる程度にまではバイアスを除去できていないため、職業訓練の効果を正しく推定することはできません。

ここでのバイアスとは、具体的には、参加するグループへの選ばれ方に関する偏り(サンプルセレクションバイアス)が該当します。たとえば、①年齢、②教育年数、③学歴、といった賃金に影響を与えうる要因が、参加するグループに選ばれる確率(参加するかどうか)と相関しているため、結果として職業訓練の効果が過大に推定されてしまいます。

物理学や生物学などの自然科学では、実験者が自分の意に沿った状況を作ることにより、対照実験を行うことが可能です。一方、人間を分析対象とする経済学では、分析者が注目する事象の影響について、実際に観察されたデータをもとに推定しなければなりません。このような状況で威力を発揮するのが、計量経済学の知見をもとにしたアプローチです。

たとえば、先述の例では、「賃金に影響を与える要因のうち、参加の有無以外の要因」が2つのグループ間で等しくなるような状況を作ることにより、サンプルセレクションバイアスの問題に対処することができます。つまり、「職業訓練への参加以外の要因が同じであるにもかかわらず、職業訓練実施後の賃金に有意な差が観察されたのであれば、両グループ間の賃金の差は、職業訓練への参加によって生じたものである」と結論づけることが可能になります。

上記のように、適切な分析により、(1)因果関係の有無と、(2)影響の大きさとを明らかにすることは、政策の効果を評価する際には不可欠だと考えられます。先ほどの例でいえば、少なくとも、(1)職業訓練は参加者の賃金を上昇させるのか、(2)(上昇させる場合)政策の便益は費用を上回っているか、という2点について考察する必要があります。

(1)については、そもそも因果関係が存在しなかったり、見せかけのものであったりする場合には、その政策は導入すべきではなかったことがわかります。また、(2)で言及したように、たとえある政策の経済効果が1,000億円であったとしても、その政策を実行するのに1,500億円が必要であった場合には、その政策の導入については再度検討すべきだったのかもしれません。そして、このような「因果関係の有無を判定し、予想される便益と費用とを比較衡量するという視点」は、政策立案にかかわらない人(たとえば、企業で企画を立案したり評価したりする立場にある人)にとっても、有用であると考えられます。

また、費用対効果が著しく低い政策や企画に対して異を唱えることが、望ましくない政策や企画を減らすことにつながるという観点から考えると、計量経済学的な考え方は、研究者以外の人にも広く求められる能力であるといえます。近年では、ビッグデータ分析に象徴されるように、データの利用可能性がかつてないほどに高まっています。それとともに、客観的なデータに基づく分析の重要性と、データを正確に解釈・分析できる人材へのニーズも高まっており、その傾向は今後も続くと予想できます。冒頭でご紹介した4つの講義を通して、データ分析に徒手空拳で臨むことの危険性と、正しいデータ分析の有用性についての理解を深めていただけると幸いです。