南山の先生

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経済学部・経済学科

蔡 大鵬

職名 教授
専攻分野 国際経済政策論、ミクロ経済学、産業組織論、資源・環境経済学
主要著書・論文 “Protection versus Free Trade: Lobbying Competition between Domestic and Foreign Firms,” Southern Economic Journal, Vol. 81, No. 2, pp. 489-505 (J. Liと共著)
“International Cross-ownership of Firms and Strategic Privatization Policy,” Journal of Economics, Vol. 116, No. 1, pp. 39-62.(Y. Karasawa-Ohtashiroと共著)
将来的研究分野 気候変動への適応や知的財産権の保護など国家間の交渉が必要とする諸問題の経済分析
担当の授業科目 国際経済政策論、ミクロ経済学、経済学のための数学

貿易政策の政治経済学

貿易政策の決定過程で、経済学者が最適だと考える貿易の自由化がほとんど採用されていないのはなぜか。また、農業などにおいて、保護主義的な貿易政策を維持しながら、急展開を見せる自由貿易協定の動きをどのようにとらえるべきか。国際経済政策論の講義の中で、理論分析を用いて、これらの問題を考えていきたいと思います。

これらの問題を考える場合、政策決定プロセスの裏に隠されている、政治家や企業の多種多様な利害を明らかにする必要があります。政治家が国全体の利益を最大化にするよう行動しているよりは、むしろ選挙資金や選挙での得票数を配慮しつつ政策を決定している経済主体ととらえたほうがより現実に即しているといえるからです。一方、企業も、政治家への献金(ロビー活動)を通じて、政策を自分に有利なように誘導するかもしれません。講義では、政治家や企業を自分の利益のために戦略的に行動するプレーヤーと捉え、彼らの戦略的依存関係を、政治家とそれに影響を与えようとする企業とのゲームとしてとらえ、政策形成のメカニズムを解き明かしたいと思います。

例えば次のようなケースを考えてみます。政治家は、国全体の利益だけでなく、選挙資金としての政治献金の大きさを考慮して関税の撤廃について政策決定を行うとしましょう。もし関税を撤廃したら、より安い外国製品が買えるので、消費者が得しますし、また国全体の利益が上昇するケースも多く見られます。しかし、外国企業との競争にさらされるため、国内企業の利潤が低くなります。そこで、国内企業は、「従来の関税を維持するなら支払う」という条件付きの政治献金を政治家に提示することにより、国全体の利益を改善できる貿易自由化を阻止しようとするかもしれません。それに成功すれば、保護貿易が維持され、企業と政治家はそれぞれ利益を得られますが、国全体の利益は下がってしまいます。

では、もしも外国企業も国内企業と同様に政治献金を行ったらどうなるのでしょうか。この献金競争に勝つのは、意外にも、外国企業かもしれません。なぜなら、国内企業の献金は、単なる国内の所得移転のため、国全体の所得が増えませんが、外国企業の献金は、外国からの所得移転となるため、国全体の所得が増えてしまいます。政治家からみると、後者のほうが、選挙資金の足しになるだけでなく、国全体の所得増という望ましい効果を2つも持っているため、外国企業が望む関税の引き下げの方に舵を切るかもしれません。つまり、献金競争がある場合、むしろ自由貿易の政策が採用されやすくなります。実際、近年、急展開を見せる自由貿易協定の動きの裏には、多国籍企業のロビー活動の威力を無視できないといわれています。

以上のように、保護貿易や自由貿易のどちらを採用するかは、分析において、どのようなプレーヤーを登場させるかに大きく依存していることがわかります。国際経済政策論の講義では、さまざまなプレーヤーの行動を明らかにしながら、国際経済における多様な政策のメカニズムとその効果についてできるだけ真実に迫りたいと考えています。