南山の先生

学部別インデックス

経済学部・経済学科

太田代 幸雄

職名 教授
専攻分野 理論経済学、国際経済学
主要著書・論文 “International Cross-ownership of Firms and Strategic Privatization Policy,” Journal of Economics, Vol. 116, No. 1, pp. 39-62.(D. Caiと共著)
“Why Do Mandated International Joint Ventures still Exist?,” Contemporary Economic Policy, Vol. 39, No. 1, pp. 236-247.(D. Caiと共著)
担当の授業科目 「国際経済学」

国際的な経済政策や国際機関の重要性について

既に皆さんもお気付きのように、日本ほど国際間でとり行われる貿易から恩恵を被っている国は少ないのではないでしょうか?そして、日本の国際貿易に関して特有のパターンとして、「主に天然資源や農作物などを輸入して、工業製品を輸出する」ということが挙げられることも、よくおわかりのことと思います。ここで、上で述べた貿易パターンは、国際貿易論において古くから導き出されている重要な原則の一例であるといえます。それは、「国々が国際的に貿易活動を行うとき、各国は国内の各産業を比較してより有効な生産活動を行える産業に重点をおく(特化する)べきである」という原則です。(このような原則を、「比較優位の原則」といいます。)ただし、「有効な生産活動」という言葉には、「産業における生産技術」や「(労働人口、資本設備、さらに土地のような)国内で生産活動を行うために必要な要素」が含まれています。つまり、日本のような小さな国土、および少ない天然資源しか持ち合わせない国は、比較的農業製品などの生産は不向きであり、比較的技術水準が高くて生産環境の整っている工業製品に生産を特化すべきであるといえます。そして、その製品輸出から得られる資金を用いて他の産業製品を輸入することによって、(貿易活動を行わないとき、あるいは異なる貿易パターンをとるときよりも)生活水準が向上するということがわかるのです。

このように、国際貿易は多くの人々に多大な影響をもたらす活動でありますが、それでは上記のような人々の活動に対して各国の政府は何らかの規制を行うべきでしょうか?この問題は、上で述べた貿易パターンのお話よりもはるかに難しい問題といえます。例えば、発展途上国において、政府が国内の(現時点では比較優位を持たない)産業を保護するための政策をとることによって、国民の生活はより充実したものになるかもしれません。また、人々は金融資産のような商品以外のモノも海外と貿易していますが、これらに対する規制が実施されていなかったために、1990年代後半にアジアで通貨危機が生じたとも指摘されています。古くから存在しているこの問題、つまり「貿易自由化の是非」は、未だ新しいテーマであり続けていると考えられるのです。

さらに、国際的な規制政策の是非に加えて、貿易戦争のような問題も生じえます。例えば、各国の政府が互いに貿易相手国の輸出を制限するような政策をとることがこの問題に当てはまります。このような状況において問題となるのは、互いに「しっぺ返し」的な報復措置を繰り返すようになるという事実です。一度貿易戦争が生じると、この状況はどんどんエスカレートし、国際貿易に関して望ましい状況から離れてしまいがちです。この状況から抜け出すためには、各国が「協調的な特権」を設けてより自由な貿易体制を確立する必要性がありますが、これは政治的に見ても非常に困難な作業であるといえます。このような例を見ても明らかなように、国際貿易をより望ましい状況に導くためには、何らかの国際的な機関が必要であるといえます。代表的な国際機関としては、WTO、 IMF、および世界銀行などが挙げられますが、これらの重要性は将来ますます高まりつつあるといえそうです。

以上、国際経済(学)における現状についてほんの一例を述べましたが、分析課題はまだまだ尽きないといえるでしょう。講義では、理論分析を用いて、以上のような問題について考えていきたいと考えています。

・参考文献
Krugman, Paul,(1994) , Peddling Prosperity: Economic Sense and Nonsense in an Age of Diminished Expectations, New York: W. W. Norton (北村行伸, 妹尾美起訳『経済政策を売り歩く人々―エコノミストのセンスとナンセンス』日本経済新聞社, 1995) .