南山の先生

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経済学部・経済学科

焼田 党

職名 教授
専攻分野 マクロ経済学、公共経済学
主要著書・論文 Yakita, A. (2017) Population Aging, Fertility and Social Security. Springer Nature.
Yakita, A. (2020) Economic development and long-term care provision by families, markets and the state. Journal of the Economics of Ageing 15, 100210.
将来的研究分野 公共経済学(少子高齢社会における経済政策)
担当の授業科目 公共経済学、経済成長論

Sandwich generations – 介護と育児を担う

ここ数年、高齢化と少子化の経済的影響(相互作用)について研究してきました。恥ずかしながら、最近になってSandwich generationという言葉を知りました。1980年代初頭には使われていたようです(D. Miller, 1981, Social Work 26)。日本では相馬直子氏と山下順子氏によってダブル・ケアラーと呼ばれています。つまり、親世代と子ども世代の両方のケアをしなければならない世代の人たちのことです。日本だけでなく海外先進諸国でも、親世代が長生きするようになり、同時に出産年齢が上がることで生じる問題(?)です。厚生労働省によると、日本の平均寿命は2016年時点で男性が80.98歳、女性が87.14歳です。また、2016年の女性の第一子出産年齢は30.7歳でした。他方、健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳ですから、男性は9年近く、女性は12年近く「不健康」な期間を過ごすことになります。

今、大まかなところを見るために上の各年齢がどの世代にも当てはまるとすると、ある女性が結婚して第一子を30.7歳で出産する時、自分の母親は61.4歳あたりとなります。この第一子が大学を卒業するときこの女性は52.7歳あたりです。日本では、大学授業料初め、生活の世話をするのが大学卒業後就職するまでだとすると、5253歳あたりまで「育児」をすることになります。複数子どもがある場合には、さらにこの期間は長くなります。他方、第一子大学卒業時には自分の母親は83.4歳あたりになります。つまり、親が「不健康」になってから8ないし9年経過しています。この期間に親の「介護」が必要になるとすれば、この8年間ないし9年間は子どもの世話と親の世話がsandwich世代にかかってきます。23歳から65歳までの43年間の労働期間のうち、5分の1程度を上と下の両世代のダブル・ケアに使わなければならないことになります。ただ、加齢が健康に与える影響にはかなり個人差があり、これが介護の問題をより複雑にしてはいます。

日本だけではないようですが、介護は女性の仕事と思われていた節があります。とすれば、この負担の大半は女性の負担となります。かなり改善されてきたとはいえ女性の賃金率は男性よりも低いとすれば、このジェンダー・ギャップは女性が介護に時間を割くことが経済的に合理的でありうることを示しています。しかし、この結論は、上述の「ケア」を家庭内でするという前提で得られるものです。もし、家庭外で「ケア」が供給され、しかも家庭外のケアが(家庭内での費用)より少ない社会的費用で供給されうるのであれば、可能な限り家庭外で供給されるべきであるということになります。もしこのような状況が実現すれば、女性の時間配分が家計外での労働(市場労働)や、場合によっては育児に、より多く配分されることで、社会的にも望ましい状況がもたらされると考えられます。

近年、介護・看護を理由として離職する正規雇用者が増えているとの報告もあります(石橋, 2019)。また、石橋 (2019)では、2016年の65歳以上要介護(要支援)者に対する介護保険3施設の整備率は16%と報告されています。家庭外介護の社会的費用が家庭内費用より低いかどうかは検討を要しますが、家庭外保育施設が女性の育児時間を開放し、女性労働と出生率を向上させる効果を持ったことはほぼ疑問の余地はないと考えられます (Yakita, 2018)。ダブル・ケアに関する研究はまだ緒についたばかりの印象もありますが、今後の研究を期待したいと思います。


参照文献
石橋未来 (2019) 「介護離職の現状と課題」大和総研Policy Research (内閣府資料).
相馬直子・山下順子 (2017) 「ダブルケア(ケアの複合化)」『医療と社会』Vol.27 No.1, 63-75.
Yakita, A. (2018) "Female labor supply, fertility rebounds, and economic development," Review of Development Economics 22(4), 1667-1681.