南山の先生

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経済学部・経済学科

上田 薫

職名 教授
専攻分野 応用ミクロ経済学
主要著書・論文 『日本的流通の経済学』 『On the Incentives to Cultivate Favored Minorities; A Note』
将来的研究分野 組織の経済学、公共選択論
担当の授業科目 「産業組織論」 「ミクロ経済学」

携帯電話の料金が何種類もある理由

産業組織論という名前はみなさんには聞きなれないものかもしれませんが、産業と企業の分析を扱う経済学のことです。企業は自分の利潤を増加させようとして、その生産や販売のやり方にさまざまな工夫をしています。そうした活動としては、他の企業の製品よりもたくさん売れるように製品の中身や値段に差をつけることから始まって、自分の製品をあつかう流通業者をコントロールしようとする流通系列化や、新しく類似の商品を売り出そうとする競争相手の邪魔をする参入阻止、新しい技術や商品を他に先んじて作り出すための技術開発(R&D)などを挙げることができます。消費者に気に入ってもらえなければ製品の売上増加にはつながりませんから、企業のこれらの活動が消費者の要求に応えるというプラスの面を持っているのは確かです。けれども、企業は消費者や社会のことを考えて商売をしているのではなく自分の利益追求をしているわけですから、その行動が消費者にマイナスの影響を与える可能性もあるわけです。そこで両方の側面を正しく理解したうえで、マイナス面が大きい場合には公的な規制をしていくことが求められます。このような問題を考えるための経済学が、産業組織論なのです。

具体的な例として、携帯電話の料金を考えてみましょう。携帯電話については各社ともに(「おはなしプラス」とか「コミコミOne」とか「トークパック」とか)何種類もの料金プランを加入者に提供しています。このように何種類ものプランを提供することで、企業の側はどんな利益を得ているのでしょうか。いろいろな料金設定から好きなものを選べるようになっていれば消費者には便利で、便利になれば加入者が増えるので企業にも利益になる、というのは事実でしょう。けれども、こうした方法が消費者にとって良いことばかりのものかというと、必ずしもそうではないのです。

消費者の中には携帯電話が大好きで通話やメールをたくさん利用したいという人もいるし、みんなが使うから自分も使ってはいるけれど利用回数はそう多くないという人もいます。前者のような人は基本料金を高く設定しても利用し続けてくれるでしょうが、同じことを後者のような人にしたなら携帯を使うのを止めてしまうかもしれません。電話会社は加入者を減らすことなく基本料金を引き上げることができれば儲かります。ですから、携帯をあまり使わない人の基本料金は引き上げずに、よく使う人の基本料金だけを引き上げられたら都合が良いわけです。けれども誰が良く使う人かを見分けるのは大変ですし、見分けたからといって理由もなく料金の差別をすることはできないでしょう。

使用料金が高くて基本料金が安いプランと、使用料金は安いけれど基本料金は高いプランの二つを設けて、「お好きな方を選んでください」というやり方は、こうした問題を大変うまく解決してくれます。あまり使わない人は使用料金が多少高くても基本料金の安いほうを選ぶでしょう。多く使いたい人は、利用回数が増えるほど有利になる、低使用料金・高基本料金のプランを選ぶでしょう。これなら消費者の方から自分がどちらのタイプか教えてくれる上に、よく使う人の基本料金だけ引き上げて利益を増やすことができます。現実の電話会社はもっとたくさんの料金プランの中から選ばせることで、こうした方法をさらに精密な形で実行し、消費者からたくさんのお金を引き出そうとしているのです。