南山の先生

学部別インデックス

経済学部・経済学科

都築 栄司

職名 教授
専攻分野 金融論、マクロ経済動学
主要著書・論文 “Determinacy of equilibrium in a New Keynesian model with monetary policy lag,” International Journal of Economic Behavior and Organization, Special Issue: Recent Developments of Economic Theory and Its Applications, Vol.3, No.2-1, pp.15-22, 2014 (単著).
“Dynamic analysis of two policy lags in a Kaldorian model,” Discrete Dynamics in Nature and Society, Vol.2015, Article ID 927138, 12 pages, 2015 (単著).
“Fiscal policy lag and equilibrium determinacy in a continuous-time New Keynesian model,” International Review of Economics, 近刊 (単著).
将来的研究分野 R&Dに基づく内生的成長理論、遅延微分方程式系
担当の授業科目 金融論、経済学のための数学、経済演習

経済成長とマクロ経済政策

経済成長とはある経済の活動水準が持続的に上昇することを言います。一国の活動水準を示す代表的な指標にGDPがあります。一国全体での給料の水準を表すものと考えて差し支えありません。経済成長率と言った場合には、それはGDPの伸び率を表す値ということになります。いま、全く成長していない国と年に10%で成長している国とがあるとしましょう。前者をA国、後者をB国と呼ぶことにします。A国は成長していないのですから当然、この国に暮らす人たちの給料はずっと変わりません。一方、B国に暮らす人たちの給料は約7年で2倍になります(GDPの水準に関係なく!)。このことは、スタート時点でB国のGDPがA国の半分だったとしても、わずか7年で追い付くということを意味しています。B国の成長率が5%なら14年、2%なら35年で追い付きます。このように、経済成長について考えることは私たちの生活がどうなっていくかを考えるうえで非常に重要なことです。

2015年の日本の名目GDP(名目という言葉はここではあまり気にしないでください)は約499兆円(内閣府・国民経済計算速報値)です。政府が2020年までにGDPを600兆円にするという目標を立てたとすると、何%の成長を続ければ目標を達成することができるでしょうか。経済成長率をg(年率)で表すことにすると、今年のGDP=(1+g)×前年のGDP という関係が成り立ちます。したがって、2016年のGDP=(1+g)×499兆円;2017年のGDP=(1+g)×2016年のGDP=(1+g)2×499兆円;...;2020年のGDP=(1+g)5×499兆円 と表すことができます。よって、600兆円=(1+g)5×499兆円という式を満たすgが目標となる平均的な経済成長率です。g=(600÷499)1/5-1≒0.0376ですから、およそ3.76%で成長すれば目標を達成できるということが分かります(ただし計算基準に変更がない限り)。

それでは、この3.76という数値を実現するためには何をどうすればよいのでしょうか。そのことを考えるための手がかりを提供してくれるのが経済成長理論なのです。

理論的には、「国民1人あたりGDP」の長期的な成長の源泉が技術進歩であることがすでに分かっています。技術進歩は主として企業によるR&D投資(研究開発投資)によって誘発されます。R&Dに成功した企業は一般に自社の製品に関する特許を取得します。特許には他社による模倣を阻止する効果があるので、特許を持つ企業は独占利潤を得ることができるわけです。特許権が強ければ強いほど、製品により高い値段をつけることができ、利益も大きくなります。これはその企業にとっては喜ばしいことです。しかし、その製品を購入する私たち消費者にとってはどうでしょうか。特許権が強ければ強いほど、より高い値段で製品を購入することを強いられます。したがって、それは歓迎すべきことではありません。

ただ、政府が消費者のためを思って特許権をなくしてしまうと、もっと困ったことになります。その場合、企業にはR&Dに投資するインセンティブがなくなり、新製品の開発が一切行われなくなるからです。たとえR&Dに投資し成功したとしても、特許権がないためにすぐに模倣されてしまう。そうすると独占利潤が得られません。独占利潤が得られなければそもそもR&Dに投資しようなどと考える企業も現れません。結果として、経済成長は停止します。

このように、特許権が弱すぎるとR&D投資へのインセンティブが弱くなり経済成長は鈍化し、逆に特許権が強すぎるとR&D投資が活発になる代わりに消費者の満足が減ってしまいます。政府には特許を「適度な」強さに維持する必要があるわけです。

この特許のお話はほんの一例です。経済成長論という分野には未解決の問題やなぞがたくさん残されています。このことは、皆さんが明らかにすべき真実がまだ眠ったままになっているということでもあります。ぜひ南山大学でそのなぞに挑み、解き明かしてほしいと思います。