学部別インデックス
経済学部・経済学科
岸 智子
職名 | 教授 |
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専攻分野 | 労働経済学 |
主要著書・論文 | Laggards and Leaders in Labour Market Reform(共著) |
将来的研究分野 | 就業形態の多様化と雇用創出に関する国際比較 |
担当の授業科目 | 労働経済学A・B,仕事とキャリアの形成 |
新時代の就業
労働経済学は、人々が働いて生計を立てることに関する、現実的かつ実践的な分野です。仕事を探すこと、日々の仕事、転職、定年など、社会人になってから皆さんが経験する多くの事柄が労働経済学のテーマです。
働いて生活することについては、実際に社会人になって経験を積み重ねていかなければわからない面もあります。しかし、社会に出てから、自分が今働いていることと経済全体とのつながりについて深く理解するためにはそれなりの基礎知識を身につけることが必要です。そこで、労働経済学の授業では、仕事に関する理論や統計資料の見方など、将来の職業生活に役立つ基本的なことを説明しています。
労働経済学で今、重要な課題になっているのは、働き方の多様性を認める一方で、人々が安心して仕事に励むことができるような雇用制度を作ることです。日本では1990年代以降失業率が高くなる一方で、パートタイム労働者やアルバイト、派遣社員など、正社員ではない人が増えました。これは、不況の中で企業が人件費を抑制するために正社員の採用を控え、その代わりに正社員ではない人たちを多く採用したからです。総務省の「労働力調査」によりますと、雇われて働く人に占める「非正規の職員・従業員」の割合は2013年には36-37%に達しました。
正社員以外の人が多い傾向は今後も続くと考えられますが、これには良い面もあれば問題点もあります。良い面は、資格などをめざして勉強をしている人、小さい子どものいる女性や高齢者など、一日中仕事をしていられない人や仕事中心の生活を目指していない人にも収入の道が開かれたことです。他方、問題点は日本企業において、パートタイム労働者やアルバイトの人たちが正社員に換わろうとしても、なかなか換われないことです。
正社員でない人の中には、はじめは「少し収入があれば良い」「何も今、企業に縛られる正社員にならなくても良い」と思って働いていたが、長年のうちに仕事中心の生活へと移行したくなる人もいます。ところが、そのときに正社員としての仕事が見つからなかったために、やむを得ずパートタイム労働者やアルバイト、派遣社員としての働き方を続けている人も少なくありません。中にはアルバイトを転々とし、仕事が不安定で収入も低いため、結婚・出産できない人もいます。いわゆるフリーター問題が日本の少子化問題を悪化させる一因になっているという指摘もあります。
このような問題を解決するためにはどうしたら良いのか、労働経済学の研究者はいろいろと考えています。日本では正社員と正社員以外の賃金格差や雇用の安定性の格差が大きすぎるのでその格差を埋めるよう、雇用制度を改革することが必要であるという意見もあります。そのために、パートタイム労働者やアルバイトとは違うが、現在の正社員ほど長時間働くのでもない、短時間正社員という就業形態を定着させることを提案している人もいます。
今のところ短時間正社員はごく少数の企業にしか見られません。しかし、諸外国の中には、日本で考えられている短時間正社員によく似たパートタイム労働が広がっているところもあります。日本企業における就業の姿も少しずつ変わっていくかもしれません。これからの人たちは仕事についてどのように考え、将来の生活をどのように設計したら良いのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。