南山の先生

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経営学部・経営学科

伊藤 彰敏

職名 教授
専攻分野 コーポレート・ファイナンス
主要著書・論文 "Two-step price adjustments of IPO book building in Japan", Pacific-Basin Finance Journal, Vol. 78, 101977, 2023(共著).
"Impact of the corporate response to climate risk on financial leverage and systematic risk", Applied Economics Letters, 2022(共著).
将来的研究分野 金融グループが資本市場にもたらす影響の分析
担当の授業科目 Corporate Finance、国際財務論

資本市場と向き合う経営

 長い期間、日本企業は特定の銀行と強いつながりを形成し、事業に必要な資金を調達する際にはそうした関係の深い銀行に頼ってきました。しかし近年では、株式発行や社債発行など資本市場から資金を調達する機会も増え、企業経営にとって資本市場の重要性は格段に上がりました。では企業の経営者は、銀行との関係維持というこれまでの施策とは別に、どのように資本市場と向き合ったらよいのでしょうか。

 第一に、資本市場の主要なプレイヤーの利害をよく理解することです。例えば、株式市場であれば、主要なプレイヤーは、年金団体などから多額の資金を委託され、高度に専門的な資産運用スキルを備えたプロ集団である機関投資家です。機関投資家は、多額の資金を生かして多くの銘柄を含んだ大規模なポートフォリオを運用しているため、このように多角化されたポートフォリオでは除去できないリスクに対してのみリターンという報酬を要求します。経営者は、(未上場会社であっても)自社の株主の期待しているリターンとは何かを常に意識する必要があります。

 第二に、資本市場から資金を調達するということは、株式投資家や社債投資家など外部の経済主体を企業の境界内に招き入れることであるという認識を持つことです。特に株主は、その果実である配当が負債投資家への果実である金利に比べて支払いの優先順位において低くなっていることからも解るように、相対的に高いリスクに晒されています。従って経営者は、そうした株主の利害を尊重する経営を行わなければなりません。もし経営者が株主の利害に反する意思決定をしたら、株主総会で退陣を要求されたり(実際に退陣に追い込まれたりすることもあります)、予期せぬ敵対的買収のターゲットとなって職を失うことになります。

 第三に、資本市場のプレイヤ―は、貸付先企業のことを比較的よく理解している銀行と違って、投資先の企業について断片的な情報しか持っていないという点を理解することです。従って、企業経営者は、投資家に自社の理解を深めてもらえるよう、常に適切なタイミングで情報開示に努める必要があります。かつては「投資家への詳細な説明など必要ない。株価など当社の業績指標としては考えていない。」と言い放つ経営者がいましたが、現在ではこのような態度は少なくとも資本市場においては許容されません。

 現代企業の経営者は、こうした資本市場の特性と制約を受け入れつつ、企業業績の向上や従業員の厚生の向上を目指し、かつ環境問題や社会課題の解決に貢献することを経営課題として取り組まねばなりません。コーポレート・ファイナンスという学問は、こうした観点から企業経営を検討し模索する試みです。