南山の先生

学部別インデックス

経営学部・経営学科

野口 晃弘

職名 教授
専攻分野 財務会計、国際会計
主要著書・論文 Noguchi, Akihiro (1998)“Effect of the Inconsistency in Accounting Standards on the Choice of Financial Instruments: The Case of Debt Issued with Stock Purchase Warrants and Convertible Debt by Japanese Companies.”The International Journal of Accounting, Vol.33 No.3, pp.335-345.
野口晃弘著(1999年)『条件付持分証券の会計』新世社。
野口晃弘著(2004年)『条件付新株発行の会計』白桃書房。
将来的研究分野 分散型台帳技術の活用が資本会計に及ぼす影響に関する研究
担当の授業科目 国際会計論、英語で学ぶ経営学(会計)、政治・経済の諸相、経営学演習

これからの会計学について考える

 お金に関する社会科学分野の学術領域として、経済学と経営学があります。経済学は国や地域、場合によっては世界全体を単位として分析を行うことがあるのに対し、経営学は企業を単位として分析を行うことが多く、経済学では数学的な手法を用いることが少なくないのに対し、経営学では具体的な企業の事例について分析するのが特別なことではありません。ただし、両者の境界線を明確に引くことは困難で、経済学部の中に経営学科が設置されていたり、経済学部と経営学部で重複する内容の講義科目が設けられていたりすることもあります。今では、学部の名称にもさまざまな表現が用いられるようになっていますので、将来の進路を考える場合、自分自身の学びたい分野が、どの学部に設けられているのか、大学ごとに慎重に情報を集める必要があります。

 会計学は広義の経営学の一領域と捉えられており、複式簿記という500年以上変わらない構造によって、企業活動を記録する仕組みに関する学術です。今までの会計学は、そのような複式簿記の構造やそれを支える理屈、法制度に組み込まれている会計記録に関するルールの解説などが中心となっており、公認会計士試験や税理士試験などの国家試験の受験科目として知られてはいても、仕事の内容そのものについては、充分に伝わっておらず、まだ、ミュージカルThe Producersの"I Wanna Be a Producer"の歌詞に見られるような単調で退屈な作業の繰り返しというイメージのままなのかもしれません。

 しかし、現代の会計学は、経済社会において、大きく異なる役割を果たしています。もし、会計学を、末端の経理担当者を育成するための、帳簿記入訓練を施すものと考えているのであれば、それは大きな間違いです。上記のミュージカルで"unhappy"と歌っていた登場人物たちが携わっていた作業は、現代では、スマホ一つで処理できるようになってきています。会計学は、情報化の進む現代において、会計情報システムを構築する上で不可欠な基礎知識であると同時に、資本市場における合理的な意思決定を行う際に必要とされる情報を、データベースから引き出し評価・判断する上で、基盤となる知識を提供する役割を果たすようになっているのです。

 ここで「会計情報」の意味についても、知識をアップデートする必要があります。昔は、たくさんの勘定科目と金額が示された一覧表である財務諸表こそ会計情報であり、電卓を用いて財務比率を計算することが、それを分析することと説明することができました。しかし、そのようなイメージは、企業が公表している現在の報告書に含まれている内容の半分も示していません。これまで環境や社会責任の履行状況に関する情報は、「非」財務情報と表現されてきましたが、2021年には企業の財務報告に関する国際的なルールを設定する組織に、環境や社会責任に関する開示のルールを設定する主体が、新たに設けられました。これまで会計と言えば金額の話だったかもしれませんが、テキスト、すなわち文章によって提供される情報も重要になってきており、テキスト・マイニングといった記述内容を分析する方法についても習得すべきものとなりつつあります。今までの財務分析から得られる情報も重要ですが、新たに提供されるようになった情報及びその形態に適応して、分析手法もアップデートしなければなりません。

 みなさんも、この新しい会計学も学んで、ダイナミックな経済社会の中で活躍してみませんか。



【参考文献】

伊藤邦雄(1987)「会計学における秩序と変革」『一橋論叢』97(4), 443-458。(https://doi.org/10.15057/12709)

財務会計基準機構(2021)「IFRS財団が、国際サステナビリティ基準審議会, CDSB及びVRFとの統合、並びに開示要求のプロトタイプの公表を発表」 (https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/press_release/y2021/2021-1103.html)

首藤昭信(2019)「会計学研究の展開と非財務情報の重要性」『経営財務』3992, 10-21。

Lee, C.M.C. (2015) "Building Bridges from the Academy to the Business Community" Plenary Session Speech at 2015 Annual Meeting of the American Accounting Association.

The Pathways Commission (2014) "Implementing the Recommendations of The Pathways Commission: Year Two"(https://aaahq.org/Portals/0/images/education/Pathways/7-9-60916.pdf?ver=2021-02-23-175643-507)