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経営学部・経営学科
薫 祥哲
職名 | 教授 |
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専攻分野 | 環境経済学 |
主要著書・論文 | 『環境評価ワークショップ-評価手法の現状-』(共著)築地書館1999年。「環境の経済評価:現状と課題」(単著)PRIレビュー、2002年。「職場環境と労働健康災害の評価-製造業データに基づくヘドニック分析-」(共著)南山経営研究、2003年。「旅行費用法によるレクリエーション便益評価-名古屋市農業センターの事例-」(単著)南山経営研究、2008年。「ごみ問題と資源リサイクル促進政策に関する一考察」(単著)南山経営研究、2015年。 |
将来的研究分野 | 環境経済評価と政策 |
担当の授業科目 | 「経営環境論」「社会システムと環境」 |
環境ってどれくらいなら汚してもいいの?
皆さんは、今の環境が汚染されすぎていると思いますか? もしその答えがYesなら、どこまで環境をきれいにすべきだと思いますか? 下の図を使って、「最適な汚染レベル」を考えてみましょう。

横軸に毎年排出される汚染物量を測り、例えば現在100kgの汚染物が排出されているとします。この図には2本の直線が書かれています。限界ダメージ(Marginal Damage, MD)は、汚染物が1kg増えるごとに発生する環境ダメージ額の増加分を表し、右上がりの線となっています。これは、まったく汚染物がないきれいな状態(図の原点)から少しだけ汚染物が出されたとしても環境ダメージは小さいですが、汚染物が増えていくに従って追加の汚染物1kgがもたらす環境ダメージ額は上昇していくと考えられるからです。一方、限界削減コスト(Marginal Control Cost, MCC)は汚染物を1kg削減するのにかかるコストを表す、左上がりの線です。現状から少し汚染物を減らすのにかかるコストは小さいでしょう。しかし、汚染物を減らし続けると、さらなる削減にかかる追加コストはどんどん上昇していくと考えられます。例えば、現状から1kgだけ汚染物を除去するのであれば、煙突や排水管にフィルターを一枚取り付ければ済むかもわかりません。しかし、汚染物削減をどんどん進めていくと、単にフィルターを二重あるいは三重にする程度では、同じような1kgの削減は達成できません。脱硫装置のような設備の導入、あるいは原油から天然ガスというように、よりきれいな燃料に変えるといったコスト高な対策が必要となって来るでしょう。
最適汚染レベルを決定するには、汚染物削減にかかるコストとその削減がもたらすメリットを比較し、メリットがコストを上回るのであれば汚染物削減を実行するという基準を用います。ここで重要なのは、汚染物削減からのメリットとは、その削減がなければ発生していたであろう環境ダメージ額であると考えられることです。まず、現状からスタートしましょう。最初、1kgの汚染物削減にかかるコスト(MCC)は小さいですが、この1kg削減のおかげで回避できる環境ダメージ(MD)額は非常に大きいことが図から解ります。どんどん削減を進めて行くと、追加削減のコストがメリットと等しくなる点(MCC=MD)にたどり着きます。これ以上汚染物削減を進めても、環境は改善されますが、その改善メリット(MD)は汚染物削減にかかるコスト(MCC)を下回ることになり、費用対効果的には効率が悪いことになります。
では、逆にまったく汚染物が出ていない状態から、どの程度までなら汚染物を排出してもよいのかを考えてみましょう。原点から出発して、1kg排出が環境に与えるダメージ(MD)は小さいですが、この1kgを排出しないようにするための汚染物削減コスト (MCC)は非常に大きいことが読み取れます。ここで、汚染物排出のメリットとは、その排出が許されるおかげで支出せずにすんだ汚染物削減コストであると考えます。排出が増えていくに従って、追加排出からの環境ダメージ(MD)が上昇し、やがてこのダメージと排出からのメリット(節約できた汚染物削減コスト)が一致する点に到達します(MCC=MD)。これ以上排出を増やすと、追加の環境ダメージがそのメリットを上回ることになってしまいます。
以上の説明から、汚染物からの限界ダメージ額と汚染物削減にかかる限界削減コストの2つの線が交わる点で最適汚染レベルが決定されることが解ります。どのような環境であっても、必ず最適汚染レベルが存在します。誰もがきれいな環境を望みますが、そのような環境を手に入れるコストと環境改善からのメリットを比較することが大切です。これは、私たちがどのように環境を評価しているのかということにも繋がります。非常に価値の高い環境については、ゼロ汚染レベルの原点近くが最適な汚染レベルとなるでしょう。逆に、汚染物削減コストが非常に高かったり、汚染物からの環境ダメージが小さい場合は、最適汚染レベルが横軸のかなり右側に位置することになります。