南山の先生

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経営学部・経営学科

山下 忠康

職名 准教授
専攻分野 「コーポレート・ファイナンス」「金融システム」
主要著書・論文 『1からのファイナンス』碩学舎、2012年(共著)
将来的研究分野 パーソナル・ファイナンス
担当の授業科目 「資本市場論(金融機関)」「資本市場論(債券・株式)」「基礎演習Ⅲ」

『金融詐欺』

金融市場は企業の経営活動や個人の資産運用にとって不可欠な存在である。企業も個人もお金を使って様々な活動をしている。会社の事業運営も、私たち個人の消費生活も、お金(資金)がなければ、どうなるだろう?とても素晴らしい事業計画を持っていても実現は困難であるし、欲しい商品を購入することもできない。

金融市場とは、お金を欲するが今は持っていない企業・個人等(資金不足主体)とお金があまっていて今は使う予定のない企業・個人等(資金余剰主体)を効率的につなぎ、お金を円滑に循環させる社会的な仕組みである。高校生のみなさんにはあまり実感がないかもしれないが、金融市場が存在しない状況では企業や個人にどのような不利益が生じるか、一度考えてみてほしい。

さて、社会的に有用な金融市場を意図的に悪用する人々が現実にいる。いわゆる「金融詐欺」を行う詐欺師たちである。実体がない架空の話を金融市場という舞台装置にのせることで、善良なる人々からお金を巻き上げるという古典的な劇場型犯罪だ。最近では、値上がりが期待される未公開株式や高利回りの社債がよく利用される手口だが、これらの詐欺行為は明らかに違法だ。

一方、経済社会において、実体のある企業が投資家から株式を発行してお金を集めたとする。この企業の経営者は真面目に一生懸命に(法律違反することもなく)経営を行った。株式を販売するときにも自社の業績や様々なリスクを投資家が理解できるように分かりやすく説明した。にもかかわらず、不況により、残念ながらこの企業は倒産してしまったとする。このような場合、株式を買った投資家は通常、経営者を詐欺で訴えることはないだろう。なぜならば、会社の株式などに投資するには、投資家がみずからその投資におけるリスクを理解し、自己責任の原則が前提になるからである。

現実問題として、この両者(詐欺と通常の金融取引)を明確に判別することはそれほど簡単ではない。企業経営者も利益をあげることが求められるので、法律の範囲ギリギリで利益を最大化する行動をとるかもしれない(たとえば、形式的な説明だけをさらっと行う。相手が理解していようがいまいが、通り一遍の説明は行ったから説明義務は果たしたとする)。また、詐欺師であっても明らかに実体がないということが分かるような話は使わない。真実と嘘の見極めが困難な境界線上の話をでっち上げてくる(福井晴敏のM資金を題材にした『人類資金』という映画が昨年公開されたが、未だにM資金もしくは類似詐欺の被害に遭う人がいるようだ)。

金融詐欺は一般的に金融市場が活況になり、バブル(株式や不動産などの資産価格が上昇しながら、経済が熱狂する状態)が形成される際に頻繁に現れると言われる。大恐慌直前のアメリカではチャールズ・ポンジ(Charles Ponzi)という人が詐欺師の代名詞として有名になった(詐欺がテーマの映画のなかでは、Ponzi schemeという言葉がしばしば出てくる)。最近では、バーナード・マドフ(Bernard Madoff)という証券会社経営者が巨額の詐欺等で禁固150年という刑を受け、現在服役中である(ハリウッドの映画業界はマドフを題材にした映画を制作するそうだ)。

詐欺師を破綻する前に詐欺師であると見抜くことは極めて難しい。詐欺師の内心(心の中)を私たちが外から目で見ることができないからだ。それでは、金融詐欺からどのように身を守ればよいのだろうか?結論は平凡だが、本当にうまい話ならば、みんなが金融市場においてひとり占めしようとするから、他人をわざわざ勧誘しようとしないだろう。「南山の先生」としては、大学でしっかりと「金融リテラシー」だけでなく、一般教養や企業・個人の行動原理等をしっかり身につけて下さいとアドバイスしたい(金融をテーマにした書籍は『半沢直樹』だけでなく、古くから多くがとりあげられているので、大学に入学すれば読書にも励んでほしい)。楽をして儲けをえようとすることは諦めて、自分で手間暇かけて情報収集し、自己責任原則を承知の上で投資すること、また、みなさんの身近なところに金融詐欺師が潜んでいることにも留意してほしい。

『百万ドルを取り返せ!』というジェフリー・アーチャーの作品では、社会的地位もある4人が金融詐欺の被害に遭いながらも、4人が協力しながら知恵と自らの才を生かして被害額の百万ドルを取り返そうとするストーリーだ(実はアーチャー自身が金融詐欺で財産を失った経験をベースに、このベストセラー作品を執筆したそうだ)。結末のどんでん返しは、詐欺と通常の金融取引の判別の難しさを教えてくれる。時間があれば、一読あれ