南山の先生

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経営学部・経営学科

中尾 陽子

職名 准教授
専攻分野 心理学、人間関係トレーニング
主要著書・論文 体験学習法を用いた人間関係トレーニングにおけるハンドベル演奏活動の試みについて(単著)
将来的研究分野 学習者のモティベーションやニーズに対応した人間関係トレーニング・プログラムの開発と実践研究
担当の授業科目 心理学、基礎演習Ⅰ~Ⅳ、組織心理学、経営演習Ⅰ・Ⅱ

『人を育てる』力をつける

私たちは、沢山の人と関わりをもちながら日々の生活を過ごしています。学生の頃は自分の家族や友人との関わりが中心ですが、社会へ出た後は、仕事上の関わりが大半を占めていきます。仕事の中で起こる人間関係には、家族や友人との関わりとは少し違ういくつかの特徴があります。その一つは、人同士が『評価』の視点を持ちながら関わり合っている点ではないでしょうか。一般的に、仕事には必ずと言っていいほど達成すべき『課題』があるため、この課題が"どれ程達成できたか・できなかったか"ということは、仕事を進める上で重要なポイントとなります。そのため、人同士の関わりも、課題達成に対する評価の視点を抜きにして作っていくことがなかなか難しいのだと考えられます。

例えば、ある企業の営業部に、同期入社であるにも関わらず大きく営業成績の異なる2人の社員がいる、という場面を想像してみてください。ある商品を一定期間内に出来るだけ利益があがるように売ることがこの営業部の『課題』であるとすると、誰よりも早く、そして多く売ることのできるAさんは営業能力が高いと評価され、あまり商品を売ることの出来ないBさんは営業能力が低いと評価されてしまうのが一般的でしょう。

しかし、AさんとBさんの周りにいる人たちが、この評価をどのような面から行ない、本人に対してどのように伝えていくかによって、特にBさんのその後は大きく異なっていくと予測されます。もし、周りの人が『課題達成量』にしか興味を持たず、営業成績についてダメ出しをするばかりだとすると、Bさんは自分にどのような問題があるのかを見つけることがとても難しくなります。結果として、営業の能力が伸びないだけでなく、Bさんは自分に対する自信を失い、組織の中でも孤立を深めることになりかねないでしょう。でも、もしBさんの周りにいる人が『人を育てる』ことに関心を持ち、Bさんが仕事の中で行う具体的な言動を正確に捉え、その事実の中から問題点を指摘する力を持っていれば、事態は異なっていきます。Bさんは、指摘された内容から自分の問題に気づき、考えるチャンスを与えられ、解決に向けて行動を変えていく可能性も生まれることでしょう。このように、『人を育てる』評価というのは、単に課題達成量の点から人を"良い・悪い"とか、"出来た・出来ない"という軸にあてはめてしまうものではありません。客観的な視点に立って相手の言動を捉え、分析し、指摘すること(フィードバック)がとても大切なのです。

また、組織では、上司と部下、先輩と後輩といった上下関係が一般的な構図として存在しています。このような構図の中では、伝える側がいくら相手を育てる気持ちを持ってフィードバックをしたとしても、受け取る側が「上司に評価されている」「部下に突き上げをくらった」という気持ちで聞いてしまっては、せっかくのフィードバックもフィードバックとして機能しなくなってしまいます。組織の中では、フィードバックをする側だけでなく、受け取る側の問題もあって、人が育ちにくい関係性が生まれているのだと思います。

このように見ていくと、人が育つためには、そこに関わる人一人一人が、フィードバックをする力と受け取る力を持っていること、そしてその力を発揮し合う関係づくりをしていくことが大切だと考えられます。しかし残念なことに、このような力や関係性はいつの間にか出来上がるものではありません。私の授業では、様々な場面を通して、この"人を育てる力"をつけるトレーニングをしていきたいと考えています。一緒に、自分が育つこと、そして他の人を育てることに取り組んでみませんか?