南山の先生

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経営学部・経営学科

中島 裕喜

職名 教授
専攻分野 日本経営史
主要著書・論文 『日本の電子部品産業 国際競争優位を生み出したもの』名古屋大学出版会、2019年
将来的研究分野 科学技術の体制化と日本企業の経営発展
担当の授業科目 経営史

歴史に学ぶ企業経営

企業経営について学ぶ経営学部では最先端の情報や理論を教わるものだと皆さんは考えているでしょう。そのような授業はたくさんありますが、それと同時に経営学部には企業や産業の歴史を学ぶ経営史という科目があります。21世紀のグローバルな時代になぜ私たちは過去に目を向けなければならないのでしょうか。

まず歴史は私たちが暮らしている「いま」という時代を考え直す機会を与えてくれます。皆さんは日本の多くの企業が世界でもトップクラスの実力を誇っていることをご存知でしょう。日本が世界の先進国の仲間入りを果たしたのは1970年頃のことです。ずいぶん昔のことだと思われるかもしれませんが、これを近代という歴史的な時間の流れの中で考えてみると、少し違って見えます。黒船に乗ってペリーが来航した1853年を日本近代のスタートとした場合、現在まで約160年です。その期間のなかで日本が先進国だった時代はわずか40年ほど、つまり4分の1です。それ以前の120年あまり、日本は欧米の先進国との大きな経済力の格差を縮めるために猛烈な努力をしてきました。明治の日本には近代的な企業に対する考え方はありませんでしたから、福沢諭吉などが株式会社という概念を西洋から伝えたり、工場で機械を用いて製品を生産する技術を学んだりしました。日本政府も富国強兵、殖産興業を実現するために様々な政策を実施しました。日本で生産された商品はやがて世界に輸出されていきますが、貿易にたずさわる商社や海運会社なども少しずつ発展しました。一方で、日本は諸外国との間に数度の戦争を経験しました。戦争は企業経営と関係ないように思われるかもしれませんが、戦力はその国の科学技術力や生産力によって支えられていますから企業も戦争遂行に不可欠な存在です。こうした様々な出来事の積み重ねの結果、現在のような経済大国日本があるのです。私たちは日本経済や日本企業の「いま」を最初から与えられたものとして受け止めがちですが、先人たちによる絶え間ない努力がなければ決して実現しなかったことを認識するべきでしょう。その歩みを学ぶことが経営史の大事な課題の1つです。

次に現在のグローバル経済との関連においても経営史を学ぶことは重要です。経済がグローバル化すると、世界は均質になって国や地域の相違は意味を持たなくなるかのように考える人がいます。実際、アマゾン、アップル、ユニクロのようなグローバル企業は国境を超えて発展しています。しかし一方で国や地域の特色は現在も多様であり、それを活かした町おこしや地域振興が行われています。ある地域が他にはない特徴を持っているとするならば、それは必ず歴史的に形成されたものです。この考え方を日本企業にあてはめると「日本的経営」という言葉の意味がわかります。日本企業は株主と経営者の関係や従業員の管理方法に様々な特色をもっていますが、これに早い時期から注目していたのは欧米の研究者たちでした。それは自国の企業にはみられない特色だったからです。「日本的経営」の起源については経営史の研究者のなかでも見解が分かれるところですが、少なくとも歴史を学ぶ以外に理解を深める方法はなさそうです。世界で活躍することが求められている現在だからこそ、自分たちが暮らす日本のことをより深く理解しておく必要があり、そのためには歴史の視点が欠かせないわけです。経営史から学べることは他にもたくさんあります。皆さんも南山大学で私たちと経営史を学んでみませんか。