南山の先生

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経営学部・経営学科

松井 宗也

職名 准教授
専攻分野 確率・統計・経済学
主要著書・論文 Matsui, M. and Mikosch, T. Prediction in a Poisson cluster model. J. Appl. Probab. 47 (2010), 350-366.
将来的研究分野 確率・統計の理論とその社会科学への応用:人類は「偶然」に対してどのように取り組むか
担当の授業科目 統計学

私の研究とは?

確率・統計の理論とその応用を幅広く研究しています。これらの研究はごく大雑把に捉えるならば偶然に関わるものです。我々の生きている世の中には偶然を伴う現象が数多くあります。それらは大きく2つに分けることができます。ひとつは天候などの自然現象に見られる偶然であり、それは時に人間社会に大きな影響を与えます。みなさんはテレビや新聞等のメディアを通じて、地震や台風による被害のニュースを耳によくするでしょう。こういった自然災害に遭うかそうでないかは偶然に大きく左右されます。2つめは人為的な現象に関係する偶然です。社会的偶然とでもいいましょうか?こちらも株式や債券価格の変動、景気あるいは交通事故、渋滞、通勤ラッシュなど枚挙に暇がない程たくさんあります。もちろん自然現象に人間が関わり新たな偶然を生み出すこともあります。更には人々の生まれつき持っている能力や生まれついた環境(貧富の差等)も偶然を伴います。

こういった偶然を伴う現象には我々にとってうれしい偶然と望ましくない偶然とがあります。前者に対しては素直に受け取ればよいですが、後者はできれば避けたいところです。(もちろん人は各々が偶然生まれ持った特性によりそれぞれが尊いのですがこの話は脇へ置いておきます。)望ましくない偶然に対して神様にお願いして運に身を任せるのもいいですが、もう少し何とかならないでしょうか?実は人々は古来より偶然に対処する方法を発展させてきました。例えば大きな自然災害に対し、相互扶助の考えのもとに保険制度を発展させてきました。つまり被った損害を互いに補うという知恵を培ってきました。自動車保険や生命保険等もそれに当たります。健康保険や年金制度もこの範疇に含めてもよいでしょう。こういった望ましくない偶然に対しては関係するデータを集めて分析することが極めて有効です。そこで確率モデルや統計学の出番となるわけです。つまり望ましくない偶然に対して有効な確率モデルを構築ないしその有用な統計的方法(データを用いて確率モデルを推定すること)を開発することで、それを避ける、あるいは被害を最小限に留める可能性を高めることができるのです。

ここ2,3年は損害保険分野への応用を意識し、ポアソン・クラスターモデルという確率モデルの構築やその統計的方法を考えてきました。もちろん理論的な方法がそのまま現実に対処できるわけでもなく、現実との対応も視野に入れ、この分野の更なる発展を目指して研究しています。更には極めて稀な現象を統計的に扱う「極値理論」も研究の対象としています。巨大地震や大洪水は極めて稀な現象と見なすことができて、こういったものに対して有効な理論です。もちろん確率や統計的な方法には限界もあります。加えて、私は完全に応用を意識するのではなく、単に理論的な興味から研究を行うこともあります。何故なら理論的な興味から発展したものも大きな応用をもたらすことが少なからずあるからです。以上は主に自然現象を対象とした偶然の研究です。

社会科学分野(私の主な対象分野は経済学です)では、一般に研究対象となる偶然の代表選手は、株式市場や景気の変動です。偶然はリスクという言葉に置き換わり、リスク管理に関わる研究が盛んに行われています。自然科学分野での偶然への方法がそのまま応用されることも少なくないです。私は社会科学に自然科学の方法を適応することが本当に正しいのか疑問もあってやや足踏みをしております。(もちろん得られたデータをそのまま分析するという経験科学の意味で統計学は、自然科学や社会科学によらないという考え方もあります。)そこで経済現象を分析するのに必要不可欠である「貨幣」に立ち返って研究を進めてみようという発想に至り、研究を進めています。貨幣は単なる価値の媒介手段や保存手段以外にも大きな影響力があり非常に魅力的な研究対象です。ですから社会科学の偶然に関しては研究を始めたばかりということになります。

尤も研究というものは、深める程にますます疑問点が湧いてくるものであって、長く続けることが重要であることがようやく最近になって分かってきました。