南山の先生

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経営学部・経営学科

池田 亮一

職名 准教授
専攻分野 金融経済学・デリバティブ理論
主要著書・論文 「消費ベースモデルによる利子率の期間構造の分析」『経営財務研究』第31巻第1号, 2011年6月, pp.56-75, (単著)
将来的研究分野 合理的期待仮説に基づくリスクプレミアム・パズルの理論的解明
担当の授業科目 ファイナンス基礎, 金融工学

金融工学の魅力

ここ数年、新聞やニュースで「金融工学」、「ヘッジファンド」、「マネーゲーム」といった金融関連の単語を頻繁に目にするようになりました。金融と言えば、お金以外に興味のないクールで物欲にあふれた人が集う無機質な世界というイメージで描かれることも多く世間的にはどちらかというとアイロニカルなイメージが先行している気がします。

そんな中素朴な疑問として、金融とか投資って何だろうということを考えたことがある人は多いのではないでしょうか。私が勉強し始めた当時は当然お小遣い程度のお金しかなく、実際に金融なんぞ異次元の世界でしかありませんでしたが、逆にそのミステリアスさに魅力を感じていたものです。

株式や債券をはじめとした金融資産に関して、高度な数学を用いてそれらの性質を研究する分野は特に金融工学と呼ばれています。コンピュータの発達もあってこの数十年で飛躍的に研究が進み、現在も多くの論文が出版されている活発な分野です。

一口で金融工学と言っても、様々な分野が多岐にわたって存在します。

例えばこんな状況を考えてみましょう。いま、手持ちの余裕財産が1億円あり、いま特に使う予定がなく将来取っておきたいお金です。そこで、これをどのようにして取っておけばよいかという問題が起きます。銀行へ預金するというのは最も安全な選択の一つですが、利子支払いは低いという欠点があります。国債はいくらか価格の変動するものの、次に安全な選択の一つでしょう。株式は価格の変動が激しく元本を下回る可能性がある一方で、大幅に元本を上回る可能性もあります。あるいは、例えば株式と国債を5000万円分ずつ買うといった「合わせ技」も考えられます。

では、どのような選択が最適でしょう。この資産選択によって得られる成果は「金額」という数字で表されることから、確率統計や微積分を用いて最も良い選択をうまく導けるのではないかと考えることはごく自然な発想でした。このような問題は「ポートフォリオ選択理論」として古くから研究されており、今なお各資産の特性を生かした新たな理論が生まれている分野です。実際に、証券会社の中にはこのような理論を独自に研究する研究所を持っている会社があり、研究成果は実際に証券会社の運用部門で生かされることで、投資家によりよい投資情報が提供されています。

その一方で、金融工学を金儲けのための学問として揶揄する人もいます。昨今の経済危機の原因とする向きもありますが、問題なのは知識をどういう人がどのように使うかということでしょう。そもそも金融市場は、企業が資金調達をする場です。金融工学がより発展し投資家が金融商品に対し正しい知識を持つようになれば、金融市場はより活発に取引が行われるようになり、社会的にも有益であることはいうまでもありません。今後は、市場の効率性を阻害する、いわゆる「マネーゲーム」と言われるような投資家行動をどのように防ぐかについてもさらに研究がなされていくでしょう。

このように、金融工学を学ぶことによって、数学だけではなく社会的な視野も広げることもできる点が魅力です。数学が好きな人にも、社会科学に興味がある人にもぜひおすすめしたいです。