南山の先生

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経営学部・経営学科

赤壁 弘康

職名 教授
専攻分野 数理ファイナンス、金融工学、観光経済学
主要著書・論文 “Option Pricing and Hedging under Stochastic Verhulst Gompertz Equation,” Scientiae Mathematicae Japonicae 77/2&3, (2011)(共著)
“Valuation of Derivative on Asset with Network Price Externality Effects,” in Lecture Notes in Operation Research (2010), pp. 68-74.
「価格がネットワーク外部性の影響を受ける資産/商品に対するデリバティブの評価、ヘッジと複製戦略について」『現代ファイナンス』No. 28(2010)(共著)
将来的研究分野 観光経済学へのファイナンス理論の応用、オプション評価
担当の授業科目 「ファイナンスA、B」「経済原論II」「デリバティブ」他

あなたもリスクに無関心ではいられない時代
―ファイナンスを学ぶ意味―

株式投資の極意は「安値で買って、高値で売る」ことに尽きるのですが、株価は日々変動します。儲かりそうな株式を安値で買ったつもりがその後暴落し大きな損失をこうむることも、高値で売ったつもりがその後もっと騰貴してせっかくのチャンスをみすみす逃してしまうこともあります。株式投資は常に価格変動リスクにさらされているわけです。どうすれば株式投資から安定した収益が得られるでしょう?

ひとつの答えは、昔からの俚諺「一つの籠に全部の卵を入れるな」に従うことです。つまり、儲かりそうな株式にだけ投資するのではなく、「できるだけ値動きの異なった複数の株式に幅広く投資してできるだけリスクを分散する」ことです。これが、ノーベル経済学賞受賞者ハリー・マーコヴィッツのポートフォリオ・セレクションの発想です。もうひとつの答えは、その株式に対してオプションが発行されているなら、株式とオプションを絶妙に組み合わせることで株式の価格変動リスクを完全に消し去る(このことをリスクのヘッジといいます)ことができるという事実を利用することです。この事実は、フィッシャー・ブラックとノーベル経済学賞受賞者マイロン・ショールズ、ロバート・マートンらによって明らかにされ、合理的なオプション価格を計算する基礎となりました。

大多数の人は、証券投資するのであれば、収益はできるだけ高くリスクはできるだけ低いほうが望ましいと考えるはずです。実は、このことは必ずしも自明ではありませんし、何人にとっても正しいこととは限りません。市場で価格が成立するためには、売りと買いの双方が存在する必要があり、リスクは大きくても一発逆転を狙って利益の大きな銘柄に投資する投機家の存在は不可欠なのです。また現実に、市場では「積極的にリスクをとらなければより大きなリターンを手にすることができない」ことが明らかにされています(この事実は、ノーベル経済学賞受賞者ウイリアム・シャープの資本資産評価モデルへと発展しています)。

「私は証券投資などしないからリスクとは無縁だ、定期預金で安全確実にコツコツ資産形成すればいい」と考える人も多いでしょう。しかし、今の金利水準を見てください。普通預金金利は0.001%程度です。金利水準に変化がないものとし、普通預金に1,000万円預金したとして、いったい何年で倍額になるでしょう?答えは、最短でも69,315年かかります。こんなに時間がかかるのでは、その金融機関が存続しているかどうかわかりません。金融機関の破綻に触れましたが、いつ銀行が破綻するかも知れないような時代となって、安全確実なはずの銀行預金も安全な金融商品ではなくなってしまいました。このリスクは、価格変動リスクと区別して、信用リスクといいます。信用リスクもファイナンスの重要な研究対象です。また、多くのひとは将来サラリーマンになることでしょう。これまで会社は企業年金の受取額を保証していました(確定給付年金)。しかし現在は、会社は年金の掛金は保証する(確定拠出年金)けれど、運用するのは自己責任で、という時代に入りました。うっかりすると、またリスクに疎いと、退職時に年金が一銭もないという時代になったのです。

われわれはこのような時代に生きていかねばならないのですから、証券会社のトレーダーになるのではなくとも、「リスクを把握しコントロールする」ことを教えるファイナンスを学ぶのは、意味があると思いませんか?