南山の先生

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その他・体育教育センター

伊藤 奨

職名 講師
専攻分野 コーチング学
主要著書・論文 「Dynamic Control of Upper Limb Stretch Reflex in Wrestlers. Medicine and Science in Sports and Exercise, 54(2), 313, 2022.(共著)」
「Differences between male and female elite free-style wrestlers in the effects of “set up” on leg attack. Archives of Budo, 15, 2019. (共著)」
将来的研究分野 対人格闘競技選手の競技力向上に関する研究
担当の授業科目 基礎体育(マーシャルアーツ・卓球・バレーボール等)、スポーツ実技

柔よく剛を制すには…

 私は、対人格闘競技選手の競技力向上に関する研究を行っています。私自身がレスリング競技を行っていたこともあり、特に、レスリングや柔道など相手と組み合い、相手を倒す・投げることを目的とした組技系格闘技を対象に研究を行っています。

 選手として長年レスリングに取り組む中で「なんで同じ体重なのに強い人と弱い人の差が生まれるんだろう?」という疑問が生まれました。この疑問が、私が研究者を目指そうと思ったきっかけです。

 レスリングが強い人の動きを観察してみると、相手の力を利用して相手のバランスを崩したり、フェイント動作(相手を惑わす動き)によって相手に迷いを生じさせ相手の防御が間に合わないようにする動作を頻繁に行っています。このような動作は「崩し動作」と呼ばれています。実際の試合動画を用いて崩し動作とタックルの成功率・得点率の関連を調査したところ、男子のトップレベルの選手は、崩し動作を行うことで、崩し動作を行わずにタックル(相手の足をとって相手を倒す技術)に入った場合よりタックルの成功率と得点率が向上することが明らかとなりました(1)。相手を押すことで相手のバランスを崩したり、攻撃のタイミングを変化させることで、相手のバランスや予測が乱れ、結果的にタックルの成功率・得点率の向上に繋がったと考えられます(1)。レスリングに似た柔道を対象とした研究でも、崩し動作によって相手の反発を生じさせることで投げやすい状態が作られることが明らかになっています(2)。崩し動作を行い相手の反応や反発を生じさせることで、より効率的に相手を倒すことができると考えられます。自分ひとりの力ではなく相手の力や反応を利用することが、柔よく剛を制すための一つのポイントだと言えるでしょう。

 レスリングをやったことが無い人たちにレスリングを見た感想を聞いてみると「相手を倒す動きがすごいけど、タックルに入る前に押し合っている時間が長くて、何をやっているのかよくわからない」と言われることがあります。タックルに入る前に押し合っている状態の中で、レスリング選手は「どうやって相手のバランスを崩そうか?」と試行錯誤している状態なのです。このような視点をもって、レスリングや柔道を観戦すると、今まで以上に観戦を楽しめるかもしれませんね。

 私は体育実技でマーシャルアーツという授業を主に担当しており、前述したような柔よく剛を制すヒントを授業内で伝えています。体育関連の授業では様々な種目の授業がありますが、それぞれの種目に関する知識だけでなく、その種目をより楽しむためのヒントを自らの体を使って学ぶことができます。

 大学生になると部活やサークル以外の場面で体を動かす機会も少なくなると思います。大学生活や今後の人生をより豊かなものにするためには、最低限の体力が必要不可欠です。体育の授業を通してスポーツを楽しみながら体力の維持向上に努め、充実したキャンパスライフを送りましょう!

参考文献
(1)Ito S, Crawshaw L, Kanosue K. Differences between male and female elite free-style wrestlers in the effects of "set up" on leg attack. Archives of Budo. 2019;15:131-37.
(2)Imamura, R. T., Hreljac, A., Escamilla, R. F., & Edwards, W. B. (2006). A three-dimensional analysis of the center of mass for three different judo throwing techniques. Journal of sports science & medicine, 5(CSSI), 122.