学部別インデックス
その他・体育教育センター
笹川 慶
職名 | 教授 |
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専攻分野 | スポーツバイオメカニクス |
主要著書・論文 | Biomechanics of increased spin velocity of flying discs during forehand throws by skilled and unskilled throwers” (査読付き論文), 共著, 2018年9月, Journal of Sports Sciences, Vol.36 No. 8, Taylor & Francis, pp. 843-851, Kei Sasakawa, Koji Umegaki & Shinji Sakurai |
将来的研究分野 | フライングディスク競技者のパフォーマンス向上のためのバイオメカニクス研究 |
担当の授業科目 | 基礎体育A・B、フライングディスク |
“当然”なのか?
『南山の先生』について、どう書き始めようかあれこれ考えているうちにアッサリと時間が...。しかし、締切がもうそこまで迫ってきています。いつまでもボーっとしているわけにはいきません。ここではエッセイ(形式にとらわれず、個人的観点から物事を論じた散文。また、意の趣くままに感想・見聞などをまとめた文章、大辞林 第三版より)形式で自己紹介もかねて私の研究分野について意の趣くままにキーボードを叩きたいと思います。
私はスポーツバイオメカニクスという研究分野を専攻しています。スポーツバイオメカニクスとは運動生理学・解剖学・力学などの基礎知識を総動員して、身体運動の仕組みを明らかにしようとする研究分野です。その成果は、障害の予防やリハビリテーション、トレーニング方法の改善や考案、スポーツスキルの向上などに幅広く役立てられてます。また、この分野にいると身体運動の本質が垣間見えることもあり、これまでスポーツの世界で「当然こうなっている」と考えられてきたことについて「"当然"なのか?」と疑うことが多くなりました。そのきっかけになった研究をひとつ紹介したいと思います。
では、皆さんにひとつ問題です。野球のピッチャーがカーブボールを投げるとき、手首はどのように捻られているでしょうか。私は小中高と野球少年であったため、大学生の時にこの結果を聞いて非常に驚いたのを今でも覚えています。
文章下部のイラストのように、リリースに向かって手のひらが徐々に自分の体の方へ向くスナップ動作をイメージしたひとが多いのではないでしょうか。これまで多くの野球指導者や解説者、指導書によってそのように説明され、野球の世界では当然のこととされてきました。私もそのように父に教えてもらい、ピッチャーでもないのにこの魔球の習得に明け暮れたのを覚えています。しかし、ピッチングフォームを特殊なカメラで撮影し、リリースまでの腕の関節角度の変化を調べた研究によると、リリースに向かうにつれて手のひらが外側を向くように手首が捻じられていたことが分かりました。
例えば、手とボールを歯車に見立てて、それらが横並びでかみ合っているとします。上から見て右側の歯車を手、左側の歯車をボールとすると、右側の歯車(手)が時計回りに回転すると、左側の歯車(ボール)は反時計回りに回転(カーブ回転)します。ピッチャーはこれと同じ仕組みでボールにカーブ方向のスピンを与えていたのです。つまり、これまで「当然」とされてきた説明と、実際の動作は異なっていたのです。このイメージ・感覚を実際と一致させることによって習得速度が高まり、また無理な動作によって生じる関節障害のリスクも抑えられます。
スポーツ時の動作において、このようなズレが様々な種目で報告されています。私が研究している他種目の投動作でもズレが見つかっており(詳細はまた今度に)、人のイメージ・感覚と実際の間にはズレがあるというところに私は面白さを感じています。スポーツにはこのような事象がまだたくさんあるはずです。これからも「"当然"なのか?」を忘れずに、より本質的な知見を見つけ出すという宝探しを楽しんでいきたいです。そこから、ひとりでも多くの人がスポーツを楽しめる環境づくりに努めて参ります。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
