南山の先生

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その他・体育教育センター

金 興烈

職名 教授
専攻分野 バイオメカニクス・疫学
主要著書・論文 「Errors in the measurement of center of pressure (CoP) computed with force plate affect on 3D lower limb joint moment during gait, IJSHS, vol.5, pp.71-82, 2007, 共著」「歩行速度(無次元速度)の性差と年代差に関する考察, 日本未病システム学会雑誌, vol.16(2), pp.254-257, 2010, 共著」「Spatiotemporal components of the 3-D gait analysis of community-dwelling middle-aged and elderly Japanese: Age-and sex-related differences, Geriatrics Gerontology International, vol.11(1), pp.39-49, 2011, 共著」「Effect of arch pads on ankle joint motion during the stance phases of walking and running, J. Phys. Ther. Sci, vol.24(12), pp.1329 -1331, 2012, 単著」, 「The examination of reliability of lower limb joint angles with free software ImageJ, Journal of the Ergonomics Society of Korea, Vol.34(6), pp. 583-595, 2015, 単著」
将来的研究分野 ・力学系理論に基づく中高齢者の歩行能力の退行性変化に関する疫学的研究
・移動運動における下肢関節障害の発生機序とその予防に関する研究
担当の授業科目 「スポーツ科学論」,「スポーツ実技:テニス・バドミントン・フィットネス・スキーなど」

恐竜の速度からスポーツ動作解明に至るまで…

私の研究分野はバイオメカニクスです。主に人の移動運動やその効率に興味を持っています。一言で言えば「バイオメカニクス」とは、生物の「運動」に必要とされる内・外力を定量化し、その力によって生成されるシステムの"運動"を力学的に記述する学問です。

さて、皆さんは映画『ジュラシック・パーク 』(Jurassic Park)を見たことがありますか?この映画は、1990年に出版されたマイケル・クライトンによる小説を原作とする映画シリーズです。この映画に登場するティラノサウルス(T-REX)は、時速50キロ以上で疾走し、車に追いつきそうになる場面(シリーズⅠ:ジュラシック・パーク)もありますが、続編(ロストワールド、ジュラシック・パークⅢ)では走る速度が大幅に抑えられました。どうしてスピルバーグ監督は、T-REXを走らせようとしたのでしょうか?また、なぜ続編からはT-REXというキャラクターに大幅な修正を加えたのでしょうか?それは当時の古生物学者らの間で繰り広げられていたT-REXの走行速度をめぐる論争が決定的な要因だったようです。

どころで、運動体の速度を計測するには様々な方法があります。皆さんもよくご存知のように最も簡単な方法はストップウォッチでタイムを計り、その間移動した距離をかかった時間で除することで平均速度が計算できます。この方法はだれもが分かる一般法則です。どころが、絶滅した動物の速度はそう簡単に見積もることができません。ヒトを含む動物の歩行や走行速度を決定する因子は、「歩幅と歩調(ピッチ)」の積で決まります。しかし、歩幅から速度を見積もる場合、動物の種類、同じ種でも大人や子供によってグラフ(横軸が歩幅、縦軸が速度)の傾きが異なるため、絶滅した動物にあてはめるには無理があります。そのため、種やサイズに影響されず、さらに現存しない動物にもあてはまる一般法則が必要とされたわけです。その一般法則とは「相対的な歩幅」を計算することによって理にかないます。つまり、相対歩幅は歩幅を下肢長で除することで得られます。幸いなことに世界中には様々な古生物の化石が発掘されているため、彼らの信頼できる下肢長を見積もることはそれほど難しいことではありません。それからもう一つは、もっとも妥当な数値を導き出すため物理学の理論に基づく「等価速度」を用いることです。等価速度とは、無次元速度に等しいので、無次元速度は次の式で計算できます。

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つまり、相対歩幅と無次元速度を両軸にとったグラフを描けば、サイズが異なる動物でもほぼ同一の一本の線上にデータが集結されることになります。 このような現象は人間(40代~80代以上, 男女2,024人)を対象に実施した私たちの研究でも同様な結果が得られました(図)。従ってこの一般法則を用いればT-REXの走行速度を見積もることも可能なはずです。

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このように、バイオメカニクス研究はヒトから恐竜までありとあらゆるものの「動き」の解明に非常に役立つ学問です。現在スポーツ選手の動作機構の解明を始め、工学、医療など様々な分野で応用されています。つまり、バイオメカニクスは私たちの日常生活の中で行われているあらゆる動作と深く関係していると言っても過言ではありません。したがって、身体活動では、単に「動かす行為」が目的ではなく、エネルギーの効率を上げ無駄のない動きを創造することが「よい動き、美しい動き」につながることになるでしょう!

スポーツ実技では、このような理論に基づき、効率よく上手くなる方法を探りながら、スポーツ実技を楽しめるような授業を展開していきたいと考えています。

皆さん!何事にも興味と自信を持って、推進する姿勢を大学4年間で身につけて進めば夢は叶えます。私は皆さん一人一人の夢に向き合っていきたいと考えています。互いに刺激しあう関係を一緒に創ってみませんか?