南山の先生

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その他・体育教育センター

飯田 祥明

職名 准教授
専攻分野 スポーツ科学(スポーツ教育工学、コーチング学、スポーツバイオメカニクス、トレーニング科学)
主要著書・論文 『バスケットボール学入門』(共著)
『KINECT v2 センサーを用いたフリースロー様動作中のマーカー式関節角度測定の精度検証』(共著)
将来的研究分野 スポーツのフォーム指導における即時的フィードバックシステムの構築
バスケットボール競技力向上に関する研究
担当の授業科目 基礎体育A・B(ネットボール、ストリートダンス等)
スポーツ実技(バスケットボール等)、スポーツ科学論Ⅱ

流行っているトレーニング=必要なトレーニング?

スポーツ科学を専門としない方でも、フィットネスという言葉は聞いたことがあるでしょう。フィットネスは単に体力と訳されることが多いですが、FitnessつまりFit(適応する)の名詞形が本来の意味です。身体に何らかの刺激を与えてそれに身体が適応していく、これが体力トレーニングによる体力の基本的な原理であると理解していて大きな問題はないかと思います。スポーツにおいて優れた成績を残したり、身体を理想とする状態へ近付けたりする際、体力トレーニングは有効な手段となることは皆さんご存知のことかと思います。

体力トレーニングを効果的に進めていく際には基本的なトレーニング理論(原理・原則)や実践方法の知識を得たうえで、自分の目的を達成できるような種目や内容を選択する必要があります。ベーシックなトレーニング手法であれば、既にトレーニングに関する研究によって体力が向上するメカニズムや効果的な実践方法が明らかにされており、体系的なトレーニングメソッドとして広く普及しています。また、過去に普及したトレーニングも私の専攻分野であるバイオメカニクスやトレーニング科学の見地から検証が行われ、非効率性やケガの危険性が指摘されることもあります。

一方で、新奇的なトレーニングの中には実は科学的な裏付けがないまま普及してしまっているものも少なくありません。所謂「体幹」トレーニングもその一例です。スタビライゼーションと呼ばれる姿勢維持トレーニングやバランスボールを用いたトレーニングが「体幹トレーニング」の代表例でしょう。このトレーニングは著名なスポーツ選手などが実践していることで話題となり、爆発的にトレーニング現場に普及しました。このトレーニングの効果の説明においては「お腹が引っ込む」「腹圧が高まる」「バランスが良くなる」といった言葉が用いられることが多いようですが、その実際を示した科学的データも不足していますし、これまでのトレーニング科学やバイオメカニクスの常識からすると疑わしい説明も多く存在します。そもそも「体幹」の定義が曖昧です。

体幹トレーニングの代表的な種目であるプランクを例に考えてみましょう。このトレーニングはうつ伏せになり肘を支えにしてそのままの姿勢を30秒~1分程度維持する種目です。実際にやってみると確かに腹直筋付近に力が入り、1分もするとかなりの疲労感が出ます。ただし、このトレーニングに巷で謳われている効果があるとは言い切れません。「お腹が引っ込む」ために必要な脂肪減少や、実際のスポーツ中にみられるようなダイナミックなバランスの上達がこの運動で効果的に達成できるかについては懐疑的な目で見ざるをえません。また、実際にこのトレーニング中に腹圧(腹部や背部の剛体化に重要だとされている身体内部の圧力)の上昇は小さかったとの報告もあります。これらのことから、少なくともこのトレーニングだけで身のこなしが別人のように良くなったりトップアスリートのような身体になったりといった過度な期待はしない方がよいと考えられます。

ただし、トレーニングとして全く無意味であるということではありません。1分間持続できる運動課題というのは「筋持久力」を向上させる効果はありそうですし、姿勢に変化が少ないので骨、関節、靭帯などにかかる負担も小さいと考えられます。個人的にはケガからの復帰にむけたリハビリやトレーニング未経験者への導入としての有用性は高いと感じています。また、解明されていないだけでこれまでのトレーニングにはない画期的な効果がある可能性も否定はできません。

大事なことは「流行っているトレーニング=必要なトレーニング」と安易に信じ込まない事です。まずはベーシックなトレーニングの理論と実践を大事にして「遠回りしない」トレーニングを進めていってください。